さて今回のお題は
「うる星やつら」コミックス2巻より「お雪」である。
通算でいうと第10話目、ということになるだろうか。
昭和54年に掲載されたエピソードとなるが
この頃はアニメ「まんが日本昔ばなし」も
バリバリにやってた時代で
老若問わず、日本人に
伝記・古潭が浸透していた時代だ。
創作において昔話をモチーフにすることは
ウルトラマンタロウを持ち出すまでもなく
よく行われることだが、
ナウなヤングが読むアバンギャルドな「うる星」と
昔話とではカラーが全く違う。
だがこの「お雪」エピソードで上手いなぁと思うのは
あたるの「半纏」や「和布団」、
押し入れの「ふすま」という
日本らしい小道具/舞台背景によって、
無意識のうちに読者の感覚を
古式ゆかしい日本に引っ張り込んでいるところだ。
あたるに風邪をひかせているのもいい。
風邪→寒い→雪、と導入として素晴らしいし、
最後のオチにもピリッと効いている。
この頃の設定としては
しのぶがまだ正妻であり、
その立場を充分に活かしているのも
あらためて新鮮である。
ラムがいない隙を狙って、
肉体関係はともかく
キスぐらいは期待している節さえうかがえる。
ただ正妻としての権力は全く発揮できておらず、
浮気の状況を目の当たりにしながら
世間一般的な良識を要求するあたりは
つまりしのぶが「一番の恋人」ではなく
「口うるさい古女房」であることを
表現しているようだ。
その古女房には逆らえないが
きれいな女性にはついだらしなくなってしまう、
ここの表現は、
ただのエロ狂いな高校生というわけではなく
サラリーマンの悲哀のようなペーソスを描いていて
まさに昭和なのだが、
個人的には大好物である。
この感覚が、アニメ版ではできていなかったと思う。
あたるの部屋に来たおユキが
シャベルを担いでいるのは
彼女が自星で先頭に立って雪かきをしていたからだが
それが明かされるのは少し先である。
だから最初のうちは、
和風美女がシャベルをエンヤコラと担いでいる図を
唐突なシュールギャグとして味わうことができる。
たいへん素晴らしい。
おユキの星に転落(?)した時の
画面構成も秀逸だ。
上下さかさまから転がっていく様子が表れている。
この手法はたいへん動画的で、
だから「うる星」が、漫画でありながら
脳内では動画として再生されることを
目指した作品だということがよくわかる。
さきほどアニメ版の話を少ししたが、
おユキのキャラもアニメ版では
ちょっと変わってしまっている。
アニメ版ではとにかく冷徹・クールな性格、と
描かれていたが(ユーモアはあったが)、
原作初登場時点では、結構表情豊かである。
血の通った感じもあって、
だからこそあたるとの情事寸前の様子が
「たまらん」のであるが、
アニメ版のほうでは
少し幼稚なものになってしまっていた。
超ゴールデンタイムに放送されていたのだから
やむを得ないといえばやむを得ないのだろうが、
小原乃梨子の声質はともかく、
発声の演出が、
今から思えばちょっとズレていたような気もする。
今回読み直して気になったのは
「B坊」の元ネタだ。
まず名前であるが、
雪男、ビッグフット、雪女の下男、
雪女のあっちの世話をする者、
あたりを検索してみたが
引っかかるようなものは見つけられなかった。
「ビーボ」「ビーボー」も関係なさそうで、
となると連載当時の他作品のネタか、
あるいは怪獣映画のオマージュか、
関係者のキャラクター化か、と思うのだが
本当のところはわからない。
古参のファンの方はご存じなのだろうか。
ネタとしてはもう一つ、
新聞配達に絡めて
「勝手なやつら」が投入されている。
ファンにとってはもちろん
すんなり受け入れられるギャグ(サービス)であるが
ただのサンデー読者には、「下に~、下に~」と
群衆の土下座の意味が分からないはずで
現代であればせいぜいが、
ケイが新聞配達している様子にとどめる、と
なってしまうだろう。
このあたりのおおらかさも、
失われてしまった「漫画の良さ」であり
それを味わえるこの「お雪」は
たいへん名作だ、と僕は思うのだ。