ぼちぼちと更新していければ

(毎週土曜日中の更新を目指しています)









笑う標的 その1

「うる星」の話が続いたので、
そろそろ他の作品の話をしなくては。

少し前の記事貝の妖精を取り上げた時に
志賀梓を思い出したので
今回は「笑う標的」を。
(ちなみに貝の妖精の出てくる
「ビン詰めの誘惑!!」がサンデー1982年30号頃、
「笑う標的」は増刊サンデー1983年2月号となる)

さて「笑う標的」だが、まずは表紙から。

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この頃は弓道警察の方たちの発言の場である
インターネッツがなかったので
譲くんものびのび部活に勤しんでいるようである。
それはともかく
現代のように多様性のないこの時代、
男子の武道といえば柔道か剣道で
習い事で空手をやってる奴がいた、
ぐらいの感覚だったから、
弓道部」というのは少し特別な、
上流階級の世界のような気がしたものだった。
受け取り方としては「フェンシング部」から受け取る
イメージだろうか。

高橋留美子氏はその作品中でも
いろいろな部活動を登場させているが、
「笑う標的」での「弓道部」というのは、
単に弓を(ストーリー内で)
武器として使うため以上に、
譲くんの、分家で従属する立場だけど
育ちは良い、品はある、という設定が感じられて
たいへん優れていると思う。

物語は旧家の陰鬱な座敷から始まる。

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本家の当主の堅苦しさが、
板張りの木目テクスチャーの、
几帳面な描写によく表れていて
それは読者にとっても重苦しく、
ゆえに同席させられている幼い梓と譲には
もっと重たく感じられるはずなのだが
二人が文句も言わずに座っていることで
「しきたり」が絶対的であることがわかる。

で、ページをめくると
いきなりその当主が死んで、
幼かった梓が成長して
「うっ!うっ!うっ!」と泣いている。
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これ、すごない?(かまいたち山内風に)
藤本タツキか!!
「時は過ぎ…」とか一切無し。すごい。
「炎トリッパー」でも
いきなりの時間経過があったけど、
あの時は巻頭カラーから
プレゼント頁か何か挟んで、
つまりCMを挟んだわけで、
「笑う標的」では翌ページでこれだから
こうかはばつぐんだ!


この序盤で確認しておきたいのは
なぜ梓と譲は許婚になったのかということだ。

まず志賀本家は、梓母と梓の二人家族である。
本家筋の志賀姓を残すには
婿を取らなくてはならない。
旧姓である志賀を受け継ぎ、
志賀の意を汲んで
将来をコントロールすることが求められる。
その点で分家の譲であれば
梓母の思惑に沿って進めさせることができるだろう。
そういうことで「安心」なのだと思う。

お家のさらなる繁栄のためには
政略結婚など、
力を持つ相手を選んだほうが良いのだが
志賀家の場合はそうではなく、
自分より劣る分家の者を選んででも、
守るべきものがあった。
それは何か。

「志賀」という血筋と名なのか。

うーんしかし、志賀同士で結婚したら
婿に入ったんだか嫁に行ったんだか
よくわかんなくないですか?

だから、ほかに何か守りたいものがあって
影響力を及ぼしていたいのではないか、
と思われるのだが、ファンタジーによくある話なら
それは「娘の秘密」かなと。
「呪われた血」というやつだ。

しかしこの「娘の秘密」は
婚約が為された後に発生したのであるから
梓母が守りたかったのはこの「秘密」ではない。

単に、封建的な、ムラ的な、
そういうことなのだろうか。
こはちょっとよくわからない。


次のページの成長した譲の登場シーンでは
また前触れもなく場面が変わっているが、
このあたりはとても映画的な感覚だと思う。
角川映画全盛期な頃だし(1983年は、「探偵物語
時をかける少女」「里見八犬伝」あたり)。


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茶店でデートすることを
それとなく打診する里美だが、
この何気ない風を装って通常の会話に混ぜる感覚、
ここが、恋愛を意識していないふりで
めちゃくちゃ意識しているのがわかって、
次の「☆ばんっ☆」の掴みとなっている。
里美の、作った表情である三白眼もとてもいい。

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譲にぶつけられた学生カバンが痛がっているのは
高橋留美子作品では珍しい描写だと思うのだが
他にもあっただろうか?
まぁ、モブのいたずら書きのようなもので
そういう余裕があった頃の作品、とも
言えるのかもしれないが。

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里美の予想に「まさか」と答える譲、
そのまさかが的中してしまうわけだが
この、人とは奇なり、という作風は
ギャグにせよドラマにせよ、
高橋留美子氏はお好きなようである。
展開の「転」になるので作品の濃度も上がるし
読んでいて充足させてもらえるようにも思う。


まだ序盤しか進んでいないのに
結構な文章量になってしまった。
当分続きます。