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「われら顔面仲間」レビューその3

さて前回までで主役二人の紹介を終えたところで
次は舞台背景の説明となる。

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ありがちなクラスの看板。これだけで
「最上級生」「先輩」「受験生」「卒業間近」と
説明しちゃえるんだから日本の漫画すごい。
卒業間近なら恋愛方面で何かあるな、と
深読みを普通にしてしまうのも漫画脳だが
お約束に乗っかって、
読むと同時に妄想していくのも
また楽しい漫画の読み方だと思う。

ここの「さわ…」という擬態語が
高橋留美子氏の気配りを感じさせる。
「さわ…」って何の音なのだろう、
看板が揺れる音か? と思ったが
クラスの軽いさざめきなのかもしれない
(ざわ…の前段階か)。

通常、舞台が教室に変わるときには
クラスの看板と共に、生徒のガヤ声や
「キ~ンコ~ン」とチャイムが
鳴ったりするものだが、
後で出てくるようにこの時は実は授業中なので
実はこの「さわ…」が、
「休み時間ではない」という
伏線だったのかもしれない。
読者が作者に遊ばれているような感覚で
ちょっと悪くない。

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明子のこの台詞はなんだかちょっと呑み込みにくい。
変装の腕前を褒められ(おだてられ)ているのに
分別なく変装するかのように言うな、というのは
先ほどの「べら」を棚上げしているし、
変装倶楽部の部員であることの否定にも繋がるのに、
彼女には自分の変装行為を卑しむ風がないからだ。
単に感受性の強い年頃の明子が、
異性にちょっと強がっている描写である、
というならそれでもいいのだけれど、
キャラの紹介がここではまだ続いているので
読者としてはちょっと迷ってしまう感じはある。

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ここでひっくり返っているのは装四郎だが
明子の時といい、仲間の変装に
動揺しすぎなんじゃないのか?
その辺りも、バラエティの「録音笑い」
(録音笑いっていうんだって)に通じて、
ちょっと冷める感じがしてしまうのだ。

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注意する先生のこの顔は妙に濃い。

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次頁のこの顔が
ギャグとして先に存在し、
そのからの逆算だったのだろうか。
ページの流れとしては少し浮いているが
くどいギャグとしてアリと思う人も
いるのかもしれない(傷つけない)。

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明子に「立たされていた感」がないな。
(装四郎への)上から描写も相まって、
委員長的なキャラに勘違いしてしまうのだけれど
全然そういうキャラじゃない。
変装倶楽部内では
ちょっとそういうところあるけれど、
考えてみれば結構狭い世界の作品である。

「変装を見破る」のも
伏線といえばいえるのだけれど
四つも同じ顔、と自己否定しているので
あまり効果がない。
ストーリーよりギャグを優先した結果、
のような感じだ。ただこれは
(実は初代部長の)教頭が見破っただけではなく、
一緒に暮らす家族である装四郎の父が
見破ったことでもあり、
次頁の、装四郎と教頭の親子関係の
露呈の驚きにも繋がってくると思えば
そうそう安直に扱うことでもないようには思う。

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「血のつながりにゾっとする」は、
「その関係が自分が望んだものではない」子供が
言うことなんじゃないかと思うのだ。
なのに、
(「親として情けない」とかいう台詞じゃなく)
なんでこういう台詞になったかというと
次のギャグに繋げるためだろうと思うけれど、

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そのギャグの構成も「きゃーそうだったのー?」を
言わせるための、そしてその顔を描くための、
無理やり感のある構成になっていて、
装四郎のヤな奴感が強くなっていく。
若い子の、親への反発、というには
ちょっと描写が強すぎるように感じる。

そう思うのも僕が
歳をとったからなのかもしれないが…。

もうあの頃の感覚では読むことはできず、
この辺りが、漫画は
リアルタイムで読まなければならない理由ではある。

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このコマも、たじろぐ先生が
ギャグの確認、後押しをしているといえ、
だからこのコマは「笑うとこ」認定されている。
氏はこういうのがお好きなんだなぁ、と思う。


ほんとに、この作品は高橋留美子氏の
落書きを寄せ集めたような作品だと思う。
忙しい時期にこれを描くのは
楽しかったんではないかなぁ。

長くなったので今回はこの辺で。
それでは良いお年を。