ぼちぼちと更新していければ

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「うる星」におけるルッキズムについて

東京オリンピックパラリンピック
開会式/閉会式の演出で
タレントの容姿を侮辱した演出案を
検討していたとの案件で、
式典の演出責任者が辞任した。

豚は時に愛嬌ある動物として愛されていて、
例えば「SING」のロジータはすごく魅力的だ。
ロジータを演じたのは日本では坂本真綾だが、
坂本真綾を豚扱いしたとか、
豚を演じさせるなとかいう論調は
聞いたことがない。

それはたぶんロジータが豚であることが、
「SING」という世界においては
蔑視するにあたらないことだからだろう。
「SING」の世界では、
豚であるということに悪いイメージがないのだ。


留美ックにおいて有名な豚は
響良牙だろうか。


「B.D.」における無邪鬼の夢を喰うバクは
どう見ても子豚だが、
なぜバクではだめだったのだろう。
「世界を呑みつくす」には
大空を飛び回るイメージが必要で、
それにはダンボのような耳に
デザインできる豚が適任、とかだろうか。

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豚の話はさておき、「うる星」は
ルッキズムの塊のような漫画である。
主人公の諸星あたるからし
美女好き・美少女好きという設定であり、
しかもはっきり不細工を差別しているのが、
近年の漫画には見られない潔さである。

だが「うる星」には
不細工な女性はごくたまにしか出てこない。

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上の画像はストーリー上の必要性があったので
かなり不細工に描かれているが、
通常回では、あたるが歯牙にもかけない
モブのクラスメイトにしたって、
充分可愛く描かれている。

たまに「化物」「怪物」が
不細工と表現されるが、
それは単に「異形」なのか、
もしくは漫画的表現なのであって、
不細工なわけではない。

男には結構ひどいけどな。

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それはやはり作者が女性であるから、
というのが大きいと推測される。

どこか、不細工な女性を描くことに
抵抗がある、もしくは単に
不細工な女性を描いても楽しくない、
描きたくない、から描かない、
のではないだろうか。

そんな「うる星」においても
「魅力的ではない女性」は時に描かれる。
「うだつの上がらない女」だ。

個人的にその代表格は
「最後のデート」(24-2)の望ちゃんである。

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彼女は作画上は充分過ぎるほど美少女であるが、
「魅力的ではない女の子」として描かれている。
それはあたるの対応を見ていればよくわかる。

確かに出会って速攻で手を握りにいっているが、
デート本番においても
「隙あらば襲いかかる」という感じではない。
全体的に遠慮がちというか
仕方なくお付き合いしているというか。

相手が幽霊なのは理由にならない。(10-4)

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手編みの衣類で暑くて死にそうなのも
理由にならない。(10-3)

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女と見れば見境のないあたるが
こんなにおとなしいのは、
望ちゃんが魅力的ではないからである。

それでも望ちゃんの願いをかなえるために
奮闘するのがあたるの優しさ、と
捉えられがちなこのエピソードだが、
逆に、「あのあたるが」
さほど食指を伸ばさない望と
同情だけでデートする、というのは
よくよく考えれば残酷な話なのだ。
そしてあたるがデート中、
ずっとニコニコしているのがまた残酷である。

ただ、あたるの素性を知り尽くしているのは
ラムやさくら、そして読者の我々だけであり、
おそらく望ちゃんは、
あたるの心持ちに気づいていないのが
救いといえば救いといえよう。


これと似たようなパターンが、
「めぞん」における九条明日菜である。
ただあちらは結果的に、落ち着くところに
すとんと落ちた感じはあるけれども。


生活感からくるやつれとか、
人間関係に疲れた感じのする
「歪んだ不細工さ」は
高橋留美子作品においても
短編などで数多く描かれている。

人間の醜さというのが、
顔や姿の出来不出来ではなく、
内面から出てくる精神的なものに
大きく影響される、と
高橋留美子氏は考えているのかもしれない。

だから、留美ックにおいて、
醜いものが出てこないコメディの補完として
シリアス短編がいくつも描かれているのは
「こういうのも描ける」というアピールではなく、
「描かずにはいられない」のだったのかもしれない。
それが、バランスだったのかもしれない。


あんまりうまくまとまらなかったけど、おしまい。