さて「戦国生徒会」の後編は
ななこ の怒り顔から。
留美ック初期に多用(?)されたこの作画、
「戦国生徒会」が掲載された時期には
あまり描かれなくなっていたように思う。
往年のギャグ漫画を彷彿させる
ステロタイプの作画だが、
ちょっとほっとするような、妙な魅力がある。
この台詞も真田くんのボケであり、
笑いを取りに来ているのだけれど
わかりにくいな。
僕は「ノンポリ」という言葉を
この「戦国生徒会」で知った。
ポリシーのない人が
すべからくノンポリなわけではない。
ノンポリとは学生運動用語なのだ。
高橋留美子氏の時代には
おそらく学生運動は鎮火していたと思うが
わりとその手のネタは、
氏の作品中に見ることがある気がする。
このコマなんかも一見、
真田くんと ななこ のラブコメギャグだが
その実、軟派が硬派を手玉に取った、
“してやったり”的な面白味もある。
「産休…」「あの先生が…」
意図してか意図せずか、
これはなかなか踏み込んだギャグだ。
クラスにちゃんと
体育クラブ系と文化クラブ系の
生徒がいることを描き込んである。
伏線とまではいかないが、
まめな作業であり、
作品に面白みが増していると思う。
クロロフォルムは、
嗅がせただけでは昏睡させられない、
というのは今では広く知れ渡っていると思う。
逆にそういうシーンが
ドラマや映画においても見かけなくなってきていて
ロストテクノロジー(?)と
なってしまったかもしれない。
最近では女性教師による男子生徒への
“せいてきぼうこう”も、たまに聞くようになったが
この頃はそういう概念からしてないわけで。
学生運動の投石や火炎瓶のように
“昔はこういうことをしていたのか”と
今の世代には誤解されそうだが、
どんな暴力行為においても
硫酸をかける、なんていう振る舞いは
およそ聞いたことがない。
だからこれはギャグだと思うが
あまり自信はない。
もしかしたら、学生運動の私刑(リンチ)で
こういう事があったのかもしれないし。
実際にあった事件が元ネタだとしたら、
それを使ったギャグというのもすごい話だけど。
“GRAVE”に見えるが後ろのページでは
“GRAPE”とはっきり読める。
作画ミスでなければ、
本物が“GRAVE”(重要)、
偽物の剣山が“GRAPE”(葡萄)なのか。
そういえばデザインが
昔のファンタ缶にちょっと似ているな。
たまたま手近にあったものを
作画材料にしたのかもしれない。
「しゃんとしなさいよ!!」
この言葉が、ななこ の意識が真田くんに
移っていっていることを表している。
「ちゃんとしなさいよ!!」ではなく
「しゃんとしなさいよ!!」なのだ。
ななこ はぶすとちゃうわっ!
このモブキャラ…
あきらかにテイストが違うやろ。
前回取り上げた盗聴係の生徒といい
劇画系の漫画家さんがヘルプしてるのか?
制服が穴だらけになるよなぁ、と
何十年も思い続けているんだけど。
真田くんがいきなりキャラ変わっちゃったけど
特にスイッチがあったわけではない。
どっちかというと真田くんのこの豹変が
ななこ のスイッチとなったのだ。
ハリウッドのパニック映画で
いきなり恋愛をぶっ込んでくるみたいに
唐突なラブシーンである。
ページをめくってすぐ、というわりに
あっさりした小ゴマで、
そのあっさり具合が逆にリアルで、
結構ぐっとくる。
キスシーンに動じる年齢じゃないけれど、
上級生のお姉さんからの積極的なキス、
となれば話は別だ。
思えば「めぞん」の前半もそうだったのだが
「めぞん」の後半では響子が幼くなってしまって
“年上の女性”という妙味はなくなってしまった。
返す返すも残念なことである。
敵の手に落ちる気マンマンなんである。
奪還アクションを夢見て、酔っているのである。
でもいいのだ可愛いから。
な・な・こ、SOS! な・な・こ、SOS!
下の名前を呼び捨てである。
ちょっとキスしたからって
いい気になっているのである。
手榴弾は四方八方に飛び散るので
ななこ も無事では済まないのだが、
所詮高校生が作ったものですし…。
文化クラブは化学部しか仕事してないな。
まぁやるとしたら「キルラキル」みたいに
荒唐無稽にするしかないもんな。
ななこ の「はい!」は
良妻っぽさを狙ったものだろう。
現代では通用しないかもしれないが
当時の少年誌としては
そういう需要もあったことだろう。
差別的かもしれないが、
あったことは事実であるし、
それを当時、作品世界に反映させたことは
商業的ではありこそすれ、
不遡及とすることが望ましいと僕は思う。
実際には生徒会長の威信など既になく、
命令を発したところで
肉弾派やかしこい派には効力がないのだが
会長印という実の部分で、
その命令に服従せざるを得ないという、
これも“してやったり”系のエンタテイメントだ。
なんで失われたことになってるんでしょうね。
見つかるかもしれないじゃんね。
読者はみんな竜子しか見てないというのに
律儀に“寒中”を表現しているモブ。
ラストは“どこまでも続くドタバタ”と
いったふうで、これは留美ックの得意なエンドだ。
得意とはいえ、前年の「ヘルプマン」のラストが
同じように夕陽の下を駆ける二人で
意趣としては似ているのだが、「ヘルプマン」が
奥に向かう=消えていく、に対して
「戦国生徒会」では手前=こちらに走ってきており、
まだ見ぬ未来へポジティブに進んでいく、
という雰囲気になっている。
少年誌らしい気持ちいいエンディングであり、
読後感もとてもいい。
ただここで ななこ が最前面に来ているせいで
真田くんの印象が薄くなっているのは残念だ。
ななこ が真田くんの手を引いているので
仕方ないのだが。
この頃は女性がリードする漫画が
人気だったような気もする。
いや、本質的には
“女性にリードされたい”だったろうか。
もっとも「戦国生徒会」にしても
「ヘルプマン」にしても、
軟弱なだけじゃなくて、奥底にはちゃんと
骨のある一面も隠し持っていてほしい、という
作者の意向が描かれている。
それを受けて、読者側でも
“そうありたい”と思っていたわけだが、
それが現代の青少年読者にも通用するかどうかは
ちょっとわからないなぁ。