先週に引き続き、三宅しのぶの話である。
連載当時というか、
アニメ「うる星」放映当時というか、
“三宅しのぶ派”のファンは確かに存在した。
そういう人が今も変わらず
しのぶのことを好きかどうかはわからないが、
しのぶを好きな人が存在するのに
しのぶを批判するのは悪手である。
ただ、しのぶに与えられた脚本が
あまり良くなかったのも事実だ。
これは別に、しのぶが悪いわけではないのだが。
先週少し言及した、
“しのぶが面堂に最後に好意を示したシーン”は
おそらくこの「魔境!戦慄の密林」(20-11)
である。もちろん竜之介や、
子ギツネの登場以後だ。
しのぶは一時、
竜之介に好かれて困る役どころを
続けてやっていたが、
話を広げられる竜之介を
そこに固定しておくわけにもいかず、
玉の輿を狙うという体で
しのぶを面堂へ向かわせた……
というところだろうか。
ちなみにその前となると
この「みじめっ子・終太郎!!」(17-10)
となるが、やはり結婚がキーとなっており、
恋愛感情は感じられない。
しのぶは良識派として
サクラとつるむことも多かったが、
彼女が普通の女子高生として
モチベーションを発揮できる“恋愛”は、
あたるがラムとほぼ固定になったことと、
面堂が二枚目役を返上して道化役となり
恋愛対象から降りたこととで、
しのぶの活躍できる“場”ではなくなった。
恋に恋する……という要素は残したものの、
さして焦る必要もなく
何かに頑張ることのない、
とても消極的なキャラになってしまったのだ。
それでも
事件に巻き込まれているうちはよかったが、
そのうちボールのトス役しかしなくなっていった。
ストーリー上で誰かがスパイクを打つ、
その主導権争いには加わらない。
しのぶが加わっても、
彼女ではボールの行き先を変えられないからだ。
(あっ、ちなみにセッターの重要さは
わかっているつもりです。
「ヨリが跳ぶ」全巻持ってますので!)
しのぶには弱点がない。
総番にしたところで、
しのぶは辟易しているだけであり、
結局は「どっせい!」に帰結する。
一見、“心優しい女子”のように振舞っているが
それが博愛的ではないことは明白だ。
彼女は、ぬいぐるみ的な可愛らしさを
好んでいるに過ぎない。
さらに、彼女は力を持ち過ぎた。
常識人の役もできなくなってしまった。
彼女ができるのは、“口先だけで綺麗ごとをいう、
しかし実はきれいごとをいう必要もない強者”
の役だけであり、
だから彼女はストーリーの核心には加われず、
少々のスパイスとして
ストーリーをかすめることしか
できなくなってしまったのだ。
考えてみれば、
「ボーイ ミーツ ガール」は
あたるの元カノとして
しのぶががっつり活躍できるチャンスだった。
あたるをよく知る者として、
あたるを説得する資格のある、
ただ一人のキャラだった
(あたるが応じるかどうかは別として)。
しかし結局しのぶは自発的には動かなかった。
ここでちょっと「扉」シリーズを見てみよう。
この、相手に流されるように“ほだされていく”
この感じ、どこかで見たような既視感がある。
「めぞん」のヒロイン、音無響子である。
もしかして、しのぶは
作者なりに、
精一杯魅力的に描かれたのではあるまいか。
作者の考える“女性の魅力”は
このしのぶや音無響子に
存分に映し出されているのではないだろうか。
その良し悪しについて断ずるのは
ここでは止しておくことにしよう。
このところの作者のインタビューからは
しのぶについて思いを遂げたような感じを受けるが
それは別に因幡とカップリングできた、と
いうことではなく
しのぶを、作者の思うしのぶというキャラに
定着できたということなのではないだろうか。
高橋留美子氏の場合、
キャラに好きに動いてもらう制作手法らしいが、
だとすると、作者の考えるしのぶに
作者自身がやっと出会えた、ということでも
あるのだろう。
しのぶとは「うる星」第1話からの付き合いだし
思い入れというか、腐れ縁というか、
俗人にはわからない、作者とキャラの
親子のような関係もあるのかもしれない。
そのことで、しのぶ自身も幸せだったのなら
それは何よりなことだと思う。
しのぶは“変わらない学園祭前日”を望んでいたが
(「あたしが間違ってたわ……」は本心ではない)、
結果的にそれは叶ったのである。
しのぶは幸せだったのかもしれないな。
〈おしまい〉