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作画や演出に見るべきものが。「はっぴーバースデーマイダーリン」レビュー


旧アニメ「うる星やつら」は
作画部分で先進的な試みをやっていて、
引き合いに出される珠玉のエピソードは
いくつもある。

そういう、アニメならではの
クリエイティブの話ではなく、
旧アニメが原作の絵のイメージに近いかどうか、
という点について
最近思うところがあるので、
今回はある一つの回をレビューすることで
それに沿うことを書き綴ってみようと思う。


旧アニメ第1話をも含め、
どうしようもない作画の回(場面)は数多くある。

そもそも旧アニメは40年前のアニメなんである。
アニメ制作のテクノロジーだって今とは全然違うし、
アニメ自体が軽んじられていて
ともすれば“子供番組”扱いされていた時代なのだ。
そこで作られたものには
いわゆる“子供だまし”というやつも多い。
旧来の原作ファンの方たちがそれを見て
憤るのも無理はない。

しかし、最初期はともかく
回を重ねるにしたがって、
原作絵の印象を損なわない回も
存在したと僕は思っている。


だから、今回は旧アニメ「うる星」から
「はっぴーバースデーマイダーリン」を
レビューしてみようと思う。


まずは断り書きから入らなくてはならないだろう。

この「はっぴーバースデーマイダーリン」は
原作をベースにした、
旧アニメオリジナルエピソードだ。

元になった原作は、以前レビューした
「惑わじのバレンタイン」(12-6)である。

これが、相当改変されている。
ストーリーの改変もそうなのだが
あたるとラムのキャラクター、性格や行動が
原作とはかなり違った方向に変えられている。

そのことでこのエピソードを嫌っている人も
おそらく多いことだろう。

制作スタッフによる、
コンテンツの私物化ともいえるからだ。

それは承知の上で今回は
このエピソードをレビューしようと思う。
うる星やつら」ではないかもしれないが
一つのアニメ作品として
このエピソードは面白いと思うからだ。


ラムが欠席を続ける教室で
近寄ってきた友人を一瞥するあたる。
値踏みするように話しかけるメガネ。
任侠物やハードボイルド邦画のような演出だ。

黙って動く面堂。
その後ろ姿に無言で眉をひそめるしのぶ。
このエピソードはとにかく
説明セリフが徹底的に省かれている。

ここの台詞は「終太郎だ」だけ。
それで全てがわかるように、
僕たちは鍛えられている。

口紅の彩色がされてないと
ほんといいんだよなサクラ。

「別に悩みってほどのものじゃないんだけど、
ラムの奴がさ…」
冒頭からずっと
古川氏が「洋画吹き替えモード」なんだけど
雰囲気出し過ぎといえば出し過ぎではある。

この顔は結構あたるだと思うなぁ。

これが!この顔が!
遠藤麻未ラムというやつだよな!

拗ねるあたる。ここの無言の間も最高である。

ここであたるはラムに肩をぶつけるんだけど
これはないかな、と思う。
男尊女卑、家長制度くさいよな…。
昭和のリアルタイム視聴時にも
「これはないな」と思ったかどうかは
ちょっと自信がないけど。

布団にもぐりこんだあたるにラムが言う
「ダーリンたら、ねぇねぇゴメン」、
これもかなり洋画モードである。
ラムがこういう言い方をするのかというと
演出過剰だろうと思わんでもないが
言わなくもない気がする。
ラムに、この距離感で
言われてみたいのは間違いない。

その後には
「怒鳴んなくったってもいいっちゃ!」
というラムの台詞が入る。標準的には
「怒鳴らなくてもいいっちゃ」だが
台本上そうだったのか、
平野氏のアドリブだったのか。
どちらにしてもたいへん好ましい。

まぁ非道いシーンである。
月明りの青白い色が付くからか
ラムの取り残され感がものすごい。

だがあたるはあたるで耐えている。
ここの絵もめっちゃいいなぁ。

「まさかあいつ、他に誰か…」
あたるはこんなこと言わんよね。
それは自明である。ここは良くない。

遠藤麻未氏の、サクラさんの怒り顔は最高だなぁ。

当時は何の気なしに見てたけど、
止め絵とはいえこれすごいなぁ。
圧縮された行き詰まり感を演出するために
これを描く、っていうのがね…。

ここで「笑う標的」ってのが絶妙だ。
そして、映画の音声は入っていないのに
我々にはちゃんと「そんなにうちがっ!」と
聞こえてくるのだ。
こんな超演出、他にあります?

劇中劇の、梓が倒されるシーンは見えない。
しかし僕ら視聴者は、
ラムがそのシーンを見たことを知っているのだ。
ラムがそれを見て、おそらくこう感じただろう、
そこまで想像できてしまうのだ。
これ、すごくないですか?

一度立ち去ろうとして、
しかしやはりもう一度
ショーウインドウに魅入られるラム。
あたるに対する反発と好きという気持ちが
入り乱れる描写である。最高過ぎて死ねる。

このエピソードではテンもいい感じだ。
代弁者の役どころを、控えめにうまく演じている。
「オンリー・ユー」の牢屋のシーンと
似た感じでもある。

あたるに冷たい言葉を浴びせられた後、
それでもテンの告げ口に耳を寄せようとするラム。
それは、あたるの弱みを握るためではなく
あたるとの雰囲気を修復するための
とっかかりを得ようとしての仕草であり、
むしろ献身的な行動なのだ。

このあたるの泣きそうな表情も最高だなぁ。


Bパートはあたるが
オモチャのライフルで遊んでいるところから始まる。
多分に制作スタッフの
ミリタリー趣味が入っていると思うけれど
あたるが特にサバゲー趣味というわけではなく、
“鉄砲のオモチャ”の一つや二つ、
男の子の部屋には普通にあった。

ただ弾が飛ぶとなるとツヅミ弾ぐらいしか
一般的ではなかったように思うけど、
これ何の弾なんだろう。

う~ん、こういう顔も
あたるはしないかな…。
この辺は旧アニメの改変、私物化といわれても
仕方のないところではある。

「おはようっ!」と元気を装い
朝食の食卓につくあたる。
だが発声と表情が全く合致していない。
「うる星」かといわれるとまぁ違いますわな。
しかし、シリアスものではないアニメで
こういう演出を見るのはたいへん新鮮だった。
この後、左右に目をやる演出も珠玉。

ガンダム」のホワイトベースの艦橋なんかでは
こういうのが繰り広げられていたように思うけど。
この回の演出の鹿島典夫氏は
サンライズ出身とのことなので
そういう流れもあるのかもなぁ。

親子喧嘩にまで発展しそうになった後、
ラムが出ていき、残ったあたる。
あたるは何も語らない。
視聴者はあたるの気持ちを考える。
自分と重ね合わせたりもする。
それが“感情移入”ということである。

ラムが転校するという噂を聞いて崩れ落ちるメガネ。
ここの、4段のぎくしゃく感がものすごくイイ!
ここやった人は天才か!?

友人たちに指示を出したメガネがその場をどくと
面堂がいた。この演出よ!
先ほどは部下に指示を出していたが、
今回は報告を待っていた。この大物感。
神谷氏のアフレコも、
押し殺した声でたいへんカッコいい。

この騒動を「どうせいつものから騒ぎよ」
と断じていながら、心では何を思うのかしのぶ。
まぁ面堂のことなんだけれども。
面堂がラムにご執心なことを
事実としては受け入れているのである。
完全に横恋慕ポジションだ。

んで、この後しのぶは特に何もしないのである。
そこがまた面白い。
動いてしまうと、ドタバタとして
ギャグに収束してしまうのだけれども、
動かなければその内面は視聴者に委ねられる。

「ん~っとぉ!」がかわいいサクラ。
「わしが奢ろう!」も、
真面目に言ってるところが秀逸なギャグ。

顎を上げた不遜な態度のサクラも魅力的だ。
こういう演出方法は
実写の世界から入ってきたのだろうけど、
動かすからにはこうでないとな、と思う。

素直な表情のサクラ。
ただの若い女になっているが
それもまたサクラの一面である。

あたるを拷問にかける準備をする4人組。
あたるは学校に戻らなかったので
彼らは何も為さなかったがそれでいいのだ。
彼らは彼らの役割を果たした。

この回で白眉な演技を見せる面堂。
彼もまた、何もしない。
台詞は端折りまくった最小限。
しかし、それがめちゃくちゃカッコいい!!

このカッコよさは、
戦国における武将のそれであり、
また好敵手の好敵手たるところである。

面堂は、カッコよくなくちゃダメなのだ。
カッコよくて金持ちで、
本当にハナモチならない奴だからこそいいのだ。
庶民からかけ離れているからこそいいのであって、
“会いに行けるアイドル”ではダメなのだ。

ラムがあたるの元に帰ることを確認した面堂が
自分の気持ちや考えを吐露せず
黙って帰っていくところもたいへん良い。
この回の面堂は、とにかくラムファーストなのだ。
最高に男らしい。カッコいい。最高だ。

「ただいま~っ、ダーリンは!?」と
元気な声を出すラムのいじらしさよ…。

そういうのがラムかラムでないかといったら
ラムのようでもあるんだけど、
そもそも本来のラムとあたるだったら
こういう事態にはならんよな、とは思う。

ただまぁ、“そうはなりそうもない”というのは
お互いに大人の対応をすることでもあり
お互いへの執着の程度問題でもあり、
この年頃の男の子と女の子が喧嘩をして、
その喧嘩をうまく捌けるかっていうと
そんなに大人の振る舞いはできないような気もする。

「はっぴーバースデーマイダーリン」は
確かに留美っく「うる星」ではないと思うけれど、
別の世界線としては
リアルな話でもあると思うんだよな…。


ラスト近くはあたるの独壇場である。

僕がこの話の何が好きって、
このラストシーン(山下氏?)において
あたるがこの年頃にふさわしい顔だちであり
この年頃にふさわしい体型であることだ。

特にあたるの身体つきについては
シリーズ中でもベストな作画だったと思う。
印象に残るラストシーンに
それを持ってきたそのことが、
このエピソードを
一つの作品として評価を待つ机上に乗せている。

旧アニメ「うる星やつら」において
作画を論じるのであれば、
そして原作の絵柄に似ているかを論じるのであれば、
ぜひこのエピソードを持ち出してほしい。


ストーリーを語るなら
もっと他のエピソードになっちゃうんだけれどね。


原作のイメージ通りのエピソードというと
「パニックイン台風!」あたりかなぁ!?
でもあれ、イメージ通り過ぎて
ちょっと退屈な気もするんですよね。
ラムは可愛いけどね。〈おしまい〉