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山下原画が最高な昭和うる星やつら「怪談!柳のオジジ!!」レビュー


今週はテレビアニメ作品の評価の際の
個々の配点のことについてブログを書いたのだが
それを踏まえたうえでもう一つ、
アニメ 昭和「うる星」から
「怪談!柳のオジジ!!」をレビューしよう。


1983年(昭和58年)6月29日に
放送されたこの作品は
原作「柳精翁の恐怖!?」(13-4)に基づく
アニメタイトルだ。

友引高校の日常回であるこのエピソードは
30分に構成し直すにあたって
かなり改変が加えられている。
だがしかし、その改変がめちゃくちゃリッチなので
「ただでいいものを見せてもらった」感がすごい。

文句のつけようがないと思うけれど
あるとすれば山下原画に対する好き嫌いだろうか。
しかしそれを言い出すと
金田伊功氏の否定になってしまうんだなこれが。

日常コメディに
金田アクションを持ち込むことの
是非はあるかもしれないが、
逆にいえばよくぞ日常コメディに持ち込んでくれた、
ということでもある。

そういえばそういうのは安永航一郎氏の
県立地球防衛軍」でもやっていて、
そうそうついでだから言っておくが
高橋留美子関係の論評に
アオイホノオ」絡みで
島本和彦氏かく語りき、みたいに
書かれていることがあるけど
あれちょっとどうかと思うんだよなー。
当時の島本和彦氏は
あんまりこっち方面という感じしなかったしなー。


話を戻して。

「怪談!柳のオジジ!!」のいいところに、
ラムが完全に脇役となっている点がある。

“美少女ラム”の要素が少ないことで
このエピソードに価値がないと感じる人も
いるだろうと思うけれども、
そこについてはほぼ原作通りなわけであり、
これもまた「うる星」なのだ。

そういう観点でいうと、
「怪談!柳のオジジ!!」は
たいへんに“ピュア”な作品だと思う。


では順に見ていこう。

2-4の教室を外から覗き込む構図。
動きこそしていないが
カメラがパンしていくので
見えているだけで19名の姿が
凝ったアングルで描かれている。
仕事としてとても誠実だ。

「ワイ談!」とヤジを飛ばすも
温泉マークにビビるあたる。
この辺は、
原作のふてぶてしい感じの方がよかったね。
このエピソードでは
最後のほうまで温泉との絡みが続くし。

温泉マークを擁護し、クラスメイトを諭す面堂。
原作では着席したまま
皮肉めいた感じで温泉を促していたが、
テレビ映えを考えたのか
アニメでは“クサい優等生”風に演技させている。
原作の大人びたギャグが
子供っぽくなってしまったようで残念だが
ひょっとして好意的に考えれば
エピソード後半の、
ある面ではクソ真面目で融通の利かない面堂、
というキャラクターをここでも印象付けている、
のかもしれない。

柳を傷つけた学生は
原作ではナイフを巻き上げられただけだったが
アニメでは呪い殺されてしまった。
なんかえらく変えたな、とも思えるが
よく考えたら温泉マークの作り話であるし、
怖がらせる怪談のオチとしては
死んでしまうぐらいのほうが妥当な気もする。

むぅ、ええなー。

あたるとメガネの何気ないじゃれ合い。
千葉繁氏の演技もすごくよかったなぁ。

この構図は面白いなぁ!
当事者の柳精翁とあたるメガネが小さく、
やや傍観者のラムが大きく写っていて、
それらをさらに電信柱の影から見ている。
ヤバいところに居合わせてしまった、
という感じがすごくする演出だ。
柳精翁が動き出すまでの間も
呆気にとられた感じがすごく伝わってきて
とてもいい。

ここもええなぁ!
こんなリッチな絵をテレビシリーズで見れて
いいのだろうか。

この面堂のポージング!
面堂の心の声が聞こえてくるようだ。
まさに、演出がこもった作画といえるだろう。

「おい見ろ!め、面堂が追い付けんぞ!」
というメガネにあたるが
「面堂なんかどうでもいい!」と斬って捨てて、
ほんとにどうでもよさそうに意に介しないのは
アニメオリジナルなんだけど、
それぞれの事情が交錯しあう作劇といった感じで
とても面白い肉付けだと思う。

滞空時間の長いこのアクションも
当時どれだけワクワクしたことか。
コナンとかカリ城でしか味わえなかった動きが
身近な日常の舞台で展開されるというだけで
すごく興奮したものだ。

山下原画はモブも情報量が多くていいんだよな。

「くそぉ、逃げ足の速いジジイだ」といって
周囲を見渡す面堂。その見渡す動きが
ブルンブルンと歌舞伎のように動いて
たったそれだけのシーンなのに
魂がこもっているのがわかる。

Bパートは温泉マークの
宿直・見回りのシーンから始まるのだが、
およそ5分に渡って
温泉のアクションが披露される。
ここの動画のリッチさときたらもう絶品だ!
しかも描かれているのは
ラムじゃなくておっさんの温泉だぜ!?

映画「ビューティフル・ドリーマー」の
深夜の学校探索のシーンに繋がる作劇であり、
令和の神作画と言われるアニメ群にも
引けを取らないと間違いなくいえるだろう。

いやでもこれほんとに、
池水通洋氏も最高なんだよな。
柳精翁の富田耕生氏もいいんだけど
池水氏が良すぎて
食ってしまった感がある。

この、びっくりして思わずガイコツが
飛び出しちゃうところなんて、
肉眼ではほとんど見えないんだよな。
惜しみもなくすごすぎるだろホント。

ここからの温泉の疾走の背景で流れるのは
「オンリー・ユー」のサントラのM-3だ。
ありていに言って最高である。


面堂が夜の学校に到着してからは
作画もいつも通りに。

あたるがシャベルで面堂を殴り、
温泉が刀の鞘であたるとメガネを殴る。
バイオレンスじゃ…。

あたるとメガネは宿直室の備品の梅酒を
盗み呑む。原作では清酒だったが、
梅酒に変わったことで

「清めの酒しぶき」もちょっと無理が。
同じギャグを繰り返す“天丼”の
タイミングは良かったけれど。

「今日(こんにち)たった今から
 面堂家の長男ではなくただの人殺しだ…!」
といきまく面堂。
令和の世に聞くと結構刺激的な台詞である。

ラストシーンもほぼ原作通りといっていい。
山下氏担当パート以外は
わりと普通の出来上がりではあるが、
イメージを大きく逸脱することのない
堅実な出来といえるだろう。


温泉の見回りのシーンは
確かに改変と言えるんだけど、
決してアニメの自分勝手な改変ではなく
エンタテイメントの提供であり
また新しい映像表現の提示であり、
山下氏の功績というだけではなく
それを許した・推進した昭和「うる星」が
まさに“神がかった番組”であったことの
証明だと思う。

昭和の時代に
アニメ「うる星」が何をやってのけたか、
「怪談!柳のオジジ!!」は
それがよくわかるエピソードだったのではないかと
僕は思うのだがいかがだろうか。〈おしまい〉