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SFマンガ競作全集から「増殖女房」レビュー


漫画家の聖悠紀氏と御厨さと美氏が
相次いで亡くなった。

最近の作品は存じ上げず、
そんな僕がどうこう言うのもおこがましいが
お二人のご冥福をお祈りしたいと思う。

両氏は“少年/少女 SF マンガ競作大全集”において
高橋留美子氏と共演をなさっている
高橋留美子氏のルーツは SF だと僕は
思っているが、それはここでも証明されている)。

いい機会なので、今回は同誌に掲載された
「増殖女房 -フェアリーテールー」を
レビューしていこう。


「増殖女房」は
“少年サンデーグラフィック うる星やつら 4 ”にも
再録されたので、読むのはそんなに難しくない。

もっとも、ターゲットに中高生も入るであろう
“サンデーグラフィック”に収録するにしては、
バストトップも露わな I 子が出演し
ダッチワイフ的なニュアンスを醸し出すこの作品は
少々刺激的過ぎたような気もする。

何がすごいって、
SF マンガ競作全集とサンデーグラフィックとでは
左始まりと右始まりが違うというのがすごい。

全 3 ページとも、頁がめくれるごとに
時間が経過しているので、
読むにあたってさして支障はないのだが、
“オチを隠した SF マンガ競作全集”に対して
“ I 子のヌードの登場シーンを隠したサングラ”
という感じだろうか。

作品のタイトルロゴは
SF マンガ競作全集とサンデーグラフィックとで
ちょっと違うのだが、
その他はほとんど差がないので
印刷が良いサンデーグラフィックのほうで
画像は追っていこう。

森下君に小包みが届く。
麻ひもで頑丈に縛られ、荷札が付いた
宅配便以前の小包みだ。
僕も一度か二度しか見たことがない。

名前を拝借した松坂慶子
「愛の水中花」を発売したのは 1979 年 7 月で、
「増殖女房」が SF マンガ競作全集に掲載される
1 年前のこととなる。増殖女房当時 28 歳だ。

また森下愛子のほうも
テレビドラマに映画に、活躍していた頃である。
こちらは増殖女房当時 22 歳。若い。

水漬けするためのビニールプールも
ちゃんと同梱されている。
きめ細やかな配慮である。
基本的には、何か得体のしれない未確認生物による
人間社会への侵略であり、
その目的を果たすための細かい配慮なんだろう。

まぁしかしこのビニールプールは
その“空気栓”を作画するために入れられたと
考えるのが妥当である。
当時、ダッチワイフが
子供だましな風船だったことは
よく知られていたから
それを暗喩するために描かれたのだろう。

部屋に散らかっているカップ麺は
おそらくサンヨー食品カップスターだな。
僕はカップヌードル派だったので
ほとんど食べたことはないんだけれども。

水で戻すというと、現代では
カラフルな子供のオモチャに
そういったものがあるのを連想するが、
当時であれば
干しシイタケを戻すなんてことも
日常的にあったし、
何かが“干からびる”ということも
よく目にしたように思う。

思えば「うる星」の「いまだ浮上せず」(2-5)

も、「増殖女房」前年の 1979 年の掲載である。

「松坂 K 子 知らねえなあ」と 2 回言った。
これが、“演出”ですよね。
森下君の興味は、この時点では
変な尻尾にではなく、送り主のほうにあるのだ。
一人暮らしの侘しい部屋で、
送り主は誰だろうと思いを巡らせながら
眠りに入っていく。
2 回言うことで、森下君のキャラクターが
馴染みのあるものになっていく。

サンデーグラフィックでは
朝チュン”に対して
欄外に担当者のコメントが付いているが
朝の雀の“チュンチュン”から
“鳥好き”に持っていくってかなり強引だな。

とった尻尾を食わされるという展開も
他の SF ならありそうだ。

クローンという概念ながら、
成体になった時に尻尾はやはり 1 本なので、
増え方としてはネズミ算にはならない模様。
あんまり侵略の意図はないのかね。

「あのブ男の」という台詞、
あたかも森下君が、友人の松坂君のことを
「(自分と違って)ブ男の」と考えているように
さらっと描かれているが、
これがこの作品の最大のオチである。

最後のコマでクラス会に集まった男たちは
それぞれ友人からブ男認定されているからこそ
尻尾を送ってもらえたのだ。
森下も例外ではない。

つまり、この作品は
ブ男が揃いも揃って
同じ顔のダッチワイフにうつつを抜かしている、
そんな状況を「世も末だ」と言っている、
そんなブラックジョークな
ショートショートなんである。

って、あれっ!?
なんか未来の予言のような話だな。
〈おしまい〉