お米の値段がなかなか下がりません。
キャベツの値段はやや落ち着いたものの
以前のような安値ではありませんし、
食品全般にインフレの影響が大きくあらわれていて
ちょっとたまったもんじゃありませんわね。
いきおい食卓も貧相になっていく一方でありますが
貧相な食卓といえば『うる星』では
諸星家が貧乏っぷりを露わにしていました。
印象に残るところでは
『夫婦ゲンカ始末記』(13-9)で
身につまされるいじましさを描かれております。
といっても当時はバナメイ海老など流通しておらず
せいぜいがブラックタイガーといった塩梅で
エビフライは一般的にも
そこそこ ご馳走だったのではないでしょうか。
1巻の『いい日旅立ち』(1-8)では
スキヤキは何ヶ月かに1回なペース、というお話。
ですが輸入牛がメジャーではなかった時代であり
また牛肉以外の“鳥すき”などが
論外だった時代でありますから、
わりと文字通りの“御馳走”だったと思います。
だから諸星家の食卓は、
貧困家庭の食卓、ではないです。
ただ、“ビンボー”や“ミジメ”が
ネタになる時代でもありましたし、
読者の親近感も得られるしで
そういう描写がされていたのでしょう。
さてそんな中、15巻で藤波親子が登場します。
彼らは一応、ホンモノの貧乏を誇っており
それが行動様式の基盤になっていたりもするので
設定上はホームレスよりちょっと上、
生活保護対象だけどなぜか生活保護は受けていない、
ぐらいのポジションなのではないかと思われます。
『クリスマスツリーわいわいパーティー!!』(16-6)
ケーキを食べたことがなかったり、
『父と娘の愛のバレンタイン!!』(17-1)
血汚冷吐だったりっていうのは
あくまでも作劇上のネタであって
カウントするのも憚られることでありますが
『別世界への招待』(30-10)
お金がなくて一食抜く、なんていう描写は
こりゃかなりのもんだなぁ、と思わざるを得ません。
『決闘!女vs.女;前編』(26-2)
朝食の小魚をくすねたりするシーンもありますが
しかし逆に、朝から魚を焼いたり
朝食に目玉焼きと味噌汁を用意したりと、
『蘭は女の香り=その1=』(15-4)
かなり文化的な生活を送っていることも事実で、
それこそ現代の貧困層のように
貧乏パン/片親パンだけで済ませたり、あるいは
フードバンクや子ども食堂を利用するといった
生活スタイルとはかなり違う。
まぁ『ウシジマくん』のようにリアルにやられても
笑えないし困ってしまいますけれども、
時代設定の違いも手伝って
藤波家が“困窮家庭”というより“清貧”に近いのは
確かなんじゃないかなあと思います。
さてそんなふうに『うる星』での貧乏描写は
藤波家の専売特許(専売特許ってのも古いよね)に
なったわけで、それは当の諸星家や
作者も認めるところとなっております。
『想い出ボロボロ!?』(17-8)
このエピソードでは“おふくろの味”というところで
解釈をボヤかしていますが、
藤波家の食卓よりも豊かな品揃えだったことは
疑いようもないでしょう。
ところが
『星に願いを』(28-1)において
諸星家が再び“貧乏しぐさ”を始めます。
シューマイひとり3個というのは確かに少なくて
冷凍食品の単価で考えてもおかしい話です。
いやお母さん、食べ盛りの高校生男子に
それはないでしょう、みたいなところなんですが
そのわりに『涙の家庭訪問』(28-9)では
担任教師がやってくるとはいえ
なかなか豪勢な天ぷらを並べてたりもします。
お父さんのいう通り、
“貧乏”ではなく“貧乏くさい”のが
実態なのではないでしょうか。
『マジカルハット』(29-5)での
水炊き&ブタ肉、に感じる違和感もあり
演出・シリーズ構成上、
食べ物の対価というか価格帯について
あんまりちゃんと考えてないんとちゃいまっか?
『七面鳥逃げた』(30-1)で
あたるが頂きもの(?)のハムを丸ごと1本
軽々しく餌としてくれてやるのも
気になりましたなぁ。
『ダーリンの本音』(30-11)では
諸星家も朝食にメザシを食べていることが
描かれていますが、当時少なくとも東京では
メザシは既に安いものではなかったですねぇ。
昭和の末期、トレンディドラマが
幅を利かせている時代でしたから、
メザシが出てくるような食卓は
「ダサい」とされていたような気がしますが
ダサい、古くさいことが全部ひとまとめに
「貧乏ったらしい」で片づけられていたような
気もします。
っていうか、令和の今から考えたら
メザシの単価もさることながら
朝っぱらから魚を焼くっていうその手間暇が
もうほんとに豊か過ぎる。
高橋留美子氏は今でも社会派というか
社会風刺ともいえる『高橋留美子劇場』を
執筆なさっていますが、
おそらくその中で今でも“貧乏”を
扱っていると思うんですよ。
で、今の貧困層って痩せてなくて、
安価で高カロリーなものを不健康に摂取するから
太っていたりするのですが、
そういうことを描けていたりするのでしょうか…。
まぁ描きたくないものは描かないというのも
アリですし、
誰もそんなもの読みたくないでしょと言われれば
確かに、氏の絵柄でウシジマくんを
読みたいわけでもないですし。
まぁしかし体験していなくても描ける、というのは
どうかな、という感じもいたしますけれども。
〈おしまい〉