今週も『約束の明日』を見ていきます。
今回はレビューのその7。前回はこちら!
前回は英二郎が仕込み杖で
苗ちゃんを襲ったところまでやりましたが
どんな感じだったか、英二郎カメラで
成り行きを見てみましょう。

苗ちゃんをなだめようとする英二郎

しかし鈍器で殴られる英二郎

愕然とする英二郎

傷心のまま、部下に始末を命じる英二郎

苗と真魚、許すまじ!と決意に燃える英二郎

苗ちゃんを仕込み杖で襲う英二郎

悲しみにくれる英二郎

去る苗ちゃんを見送る英二郎
えっ、部下に始末を命じておいて
なんで自分で襲った?
そんで、致命傷も負わせずになんで逃がした?
なんじゃそりゃ。
楔(自分の爪痕)を打ち込みたかった?
行くな、の意思表示?
ボクはここにいる、という自己アピール?
なんでそれを、相手を傷つけることで
行おうとするかな。
そら真魚ちゃんも怒るわ。

ここは相当無理筋なんですけど
要するに苗ちゃんに
凶器(仕込み杖)を渡すために
英二郎は動かされたんですよね。

描きたいシーンのためのアリバイを
狂人 英二郎におっ被せた感じがします。
俗に、サイコパスは頭脳が優秀といいますが
英二郎は大秀才と言われてはいても
その行動が論理的じゃないです。
例えば『羊たちの沈黙』のレクター博士が
人の倫理観から大きく外れているにせよ
その行動原理は理解できるのに比べて、
英二郎の行動は理解できません。
そういう観点からいうと
英二郎をサイコパスなどと言ったら
サイコパスに失礼であって、彼のことは
頭のおかしいストーカー、と呼称するのが
的を得ているのかもしれないな、などと
思います。

英二郎が部下に命令を発して
真魚ちゃん大ピンチ!
次のシーンでナイフの刃が
首に少し入っているのが悪趣味であります。
ナイフが首に触れていなくても
成立するシーンなのにね。

真魚を殺めようとする側近1号に
謎の巨石が投げつけられて
真魚はピンチを脱します。
側近1号の出番はここで終わり。
こんなん当たったら普通は死ぬけど、
たぶん失神したことになっているのでしょう。

現れたのは湧太(と草吉)でした。
立ちはだかる湧太に
英二郎は「生きて…いたのか…」と呟きます。
次ページから過去についての会話が始まるので
英二郎の「生きて…いたのか…」が
重みをもったセリフのように感じますが
実は久しぶりの再会でもなんでもない。

建設現場で始末させたはずなのに、
マッチョ黒メガネめ、しくじったのか。
そういう思考のはずであって、
別に 感極まったように言うことじゃない。
まぁ、読者に誤認させるテクニック、では
あるのかもしれません。

湧太が英二郎に詰め寄り、
いよいよ あの日赤い谷で何があったのか
その真相が明らかになります。
偽の合図を仕組んだ英二郎は
赤い谷に向かう苗ちゃんを尾行していました。

「まさか来るなんて」ってのは
待っていた者が言う言葉であってですね。
英二郎は、道祖神辺りから尾けてきたのだから
途中で「あーこれもう赤い谷に行くなぁ」
と思ったはずです。
ショックを受けながらも声をかけずに
赤い谷まで着いていく英二郎。
意外にMっ気もあるのかもしれません。

英二郎の告白は
赤い谷に到着した苗ちゃんの記憶と
交互に描写されます。

苗ちゃんは、殺されたことよりも
裏切られた(すっぽかされた)ことのほうが
辛かったようですね。
なんとも感情的な思考であります。
だからこの後、湧太に凶器を向けるわけですが
実際には殺される前に既に

合図は英二郎の工作であり、
湧太は別に約束を破っちゃいない、と
判明、認識しています。

湧太は「連れていけない」と
はっきり言っているわけですから
苗ちゃんが「来なかった」と恨むのは
完全にお門違いであり、
夢見る夢子ちゃんかよという感じですが
どうもそこは作品中では
問題視されないみたい。
“少女の無垢な想い”、有利すぎる…。


殺すつもりだったのかと草吉に問われ、
んなわきゃーない、と返す英二郎。
苗さんにはがっかりしました、の
ローテンションが
凶行に及ぶハイテンションまで
どのように変化したのか。
つまり激情にかられたわけで
衝動的な、心神喪失状態だったのかと
思ったりもしますが、
絞殺中に「これ終わったら灰取りに行くかー」
などと考えていた節があり、
判断能力に問題のない、
計画的な犯行とみて間違いありません。
「そんなわけないでしょう」などと
さも心外だみたいに言ってますが、
現にきっちり殺してるわけです。
というかここの英二郎の心理がわからん。
頭おかしい。殺人の定義が普通と違うのか?

後に出てくるように「時効だから」と
思っていたにせよ、
惚れた女性を殺めた罪悪感というものは
普通は いつまでも消えないだろうに、と
思うのですが…。

苗ちゃんを絞殺したあと
人魚の灰で生き返らせてあげるから大丈夫、
とうそぶく英二郎。
バカ丸出しくんであります。
まず灰で生き返るエビデンスがない。
比丘尼の裏伝説だけが論拠かよ。
それに、事前に灰のありかを確認していない。
ということは灰が現存するかどうかも
定かではない。

苗ちゃんが谷に撒いた、
壺(?)を苗ちゃんがどこかに隠した、
何らかの事情でそれを知ったとしても
基本的に人魚の灰をどうこうする権利は
苗ちゃんの父君が持っているわけですから
いつ逸失してしまうかわかったもんではなく、
犯行前に手に入れておかないのは
甘いとしか言いようがないです。


苗ちゃんを生き返らせられないんじゃ、
ボク人殺しになっちゃうよぉ!
あの時は慌てましたねぇ…と
遠い目をする英二郎。
いやいやいやいや……!
どういうつもりなのか
英二郎を問いただしたい。
ついでに作者さんにも、
この部分のレトリックは
どうなっているんですか?とぜひ聞きたい。
殺しても、生き返らせれば
ノーカンだとでも思っているのか?
そんな英二郎に湧太が言う。
生き返らせたところで、
悪鬼になってしまうのだと。

「は? 知ってますけど?」と開き直る英二郎。
英二郎の意図としては
苗ちゃんを魂の抜けた人形にしてしまって
思い通りにしたいという欲望があったようだ。
ということは、
殺して生き返らせる行為が
魂抜きの儀式だったと考えられます。
レビューその5で
英二郎はピグマリオンコンプレックスでは?
と少し書きましたが
意志を持たない肉体だけを欲する英二郎は
異常性癖を持っているようで
大秀才の外見と相まって
抑圧されたゆえの異常性、などと
ラベリングしたくなってしまいます。
ただ忘れてならないのは
それは作者がそう創ったということ、
なんですよね。
しかもストーリー上のしわ寄せも
英二郎に背負わせているわけで、
わりと非道いなぁと思ったりもします。
英二郎に関してだけは、
英二郎を演じた中の人がいるのだ、
というつもりで見ていかないと
ちょっとやるせないというか
いくらなんでもかわいそうだろうと
思うのですが…。
どうでしょうかねぇ。
さて来週は物語を最後まで見て、
さらに総括をしたいと思います。
どうかよろしくお願いします。
〈つづく〉