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笑う標的 その2

前回に続いて「笑う標的」を取り上げる。

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久々に再会した梓の美貌に息を呑む譲。
…というシーンだが、この梓って
あまり魅力的には見えないな、と
当時から思っていて。

高橋留美子氏が「美人」というニュアンスで
キャラ立てする時にしばしば、
口紅をつけている風に、または
唇の色を濃く描くのだが、
それがここではどうにもケバい。

17、8歳には見えない美貌、と
いいたいのかもしれないけれど、
逆にいえばまだ17、8歳なのだ。

唇を濃く描けば、まず最初に「化粧」と
感じられてしまうと思う。
読者が(当時)青少年たちであることからしても
そう捉えられてしまうのは必然な気がする。

その、「化粧」という部分に
梓の“ペルソナ”をだぶらせている、
という見方もできるが、
その表現のために失っているものもまたある。

美人ではあるが
田舎の世間知らずな梓が「ケバい」のは
ちょっと違和感があるのだ。

例えば面堂了子は通常時口紅をつけていないが
それでも彼女が美人だというのは
誰が見ても明白である。
梓もそのほうがよかったな、と思う。

ただ、梓が口紅によって
「おどろおどろしいキャラ」を
維持できているのもまた確かで、
これが、すっぴんで純なキャラだったら
ラストの後味が悪くて仕方ないのかもしれない。

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まぁそんな美人な梓なのだが、制服から
その顔立ちにミスマッチな部屋着に着替えて
男の部屋のベッドに腰かけている、というのは
相当現実離れしたシーンであり、
今読むと心躍って仕方がない。
この、梓がダサいセーターを着ている良さは
当時の俺にはわからんかったやろうなぁ…。

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「譲ちゃんがおるもん!」の流し目。
この絵を絵のまんま受け取れば、
「狙っている目」ではない。
ある種、信頼しているような、
確実にモノにしているものを見る目だ。
しかもそこに攻撃性がない。
すごい画力である。

また梓はこの一言に
自分の人生を語っているともいえて、
この思い込みの強さって、
あぁこれエルと同じだよね。
奇しくも「笑う標的」も「オンリー・ユー」も
1983年公開である。
高橋留美子氏が「うる星」劇場版の中で
「オンリー・ユー」を一番評価しているのも
何か通ずるものがあったからかもしれない。

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漫画界では食パン少女の「遅刻遅刻~!」が
現実にはあり得ない事例の代表だが、
知人宅に身を寄せた学生が
いきなり学校に編入してくる、というのも
考えてみれば相当アクロバティックである。
よく「家の事情で」とか使われるけど
家の事情で即転校できるほど
日本の高校就学事情は甘くない。
少なくとも住民票の移動は必要とみるべきで、
つまり梓は
譲と関係を深めて結婚するまでの数年間、
腰を据えて、譲家に居候するつもりでいたと
いうことになる。


話が少し逸れるが、
分家の譲家が志賀姓であることから、
分家は嫁入りや婿入りではないことがわかる。
また婿取りだった場合、家を出ないと思われるので
分家となるのは男性、つまり梓母の弟となり
譲の父であると推測される。

ということは譲父は長男ということだが
世継とはならなかった。
当主の座は姉が握ったまま離さなかった。
この辺り、譲父も何か忸怩たる思いがあっただろう。
横溝正史的ないろいろが。

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梓母の葬式の後、
梓を東京に連れていく、と言った眼鏡の男性が
おそらく譲の父であろう。

本家の財産を我が物にしようという意図が
見え隠れするが、梓の譲への想いにより
そうすんなりとはいきそうもない。

とりあえずいったんは梓を預かろう、と
思ったのだろうか。しかし、
葬式の席で梓本人が
譲への想いを口にしているのだから
譲家では、許婚の梓が譲をモノにしにやってきた、
という認識のはずである。

だから譲が、梓との婚約について
当事者意識を持っていないのは
どう考えても譲の父親の説明不足のせいなのだ。
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梓が東京に来てからは、
夕食の場にも出演させてもらえないようなのは
バツが悪いからなのか。

「笑う標的」は恋愛愛憎劇に見えて
実はお家騒動的な話でもある。
ここら辺が、
作品に深みを感じる要因なのかもしれない。

「笑う標的」、まだ続きます。





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浮遊感が何ともあだち充的なインサートカット。

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チョロすぎる里美さん。