ぼちぼちと更新していければ

(毎週土曜日中の更新を目指しています)









「マンガチ」を入手した

僕はるーみっくのキャラ商品をあまり買わない。

そもそも年中金欠だからというのもあるのだが、
最近は百円ショップ、300円ショップの商品で
るーみっくキャラ商品が売られていたりするから
必ずしも値段だけの問題ではない。

見飽きた版権絵の使いまわしに
対価を払う気にならない、というのが
いちばん大きな理由である。

もう一つの理由としては
中高年のおっさんが
アニメ(漫画)グッズを使うのは
このご時世であっても
レトロフューチャー・ノスタルジーでは
言い逃れできないヤバさがあるからだが、
これについては自宅専用とすることで
問題を回避できることでもある。

さて今週、久々に
るーみっく関連のキャラ商品を購入した。
H TOKYO からリリースされた
マンガチ」の中の#1「Lum(blue)」と
#4「Ataru」である。

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2018年から発売されていたようだが
恥ずかしながらまったく知らなかった。
漫画関係ではコミックナタリーあたりは
まめにチェックしていたつもりなのだけれど。

最初は神保町の画材店で発見したのだが
欲しい#1と#4がなく、
東京駅で#4をゲットして、
丸の内では残りの欲しいものが得られず、
三宿で#1を確保した、という次第。

さてこの「マンガチ」#1と#4のレビューである。

「マンガチ」のコンセプトは、
ロゴ下部にも記載があるように
Take Your Favorite Manga or
Picture Book in Your Pocket、
大好きな漫画を持ち歩く、ということのようだ。
海外展開も視野に入れている(されている?)
のではないかなぁと推測される。

えっ、
それ電子書籍スマホに入れとけばいいんじゃね?
とも思うけれども。

どちらかというと
ハンカチというキャンバス上に展開した
デザイン世界、というふうに僕は捉えていて、
だから#1の「Lum(blue)」なんかは、
最近ではキャラをうまくあしらった
日本手拭いなんかもあることだし
特に目新しくはないのだが、
#4「Ataru」の、
漫画のページ構成をそのまま持ってくるのではなく
印象深いコマを
コラージュ・再構成して並べた仕事が、
「お前さんやるじゃない」である。

コマをまたぐ擬音の処理も、
愛情なくしてはできない仕事である。

公式オンラインストアの商品紹介に
商品の全体画像があるが、
使われているコマのチョイスがまた実にシブい。
うる星やつら」と聞いて
安易にイメージ・チョイスしそうになるところを
ぐっとこらえて創り出した、
見事なディレクションだと思う。

そもそも「うる星」の本質を、ラブコメではなく
あたるの奇想天外な日常生活に
見出しているのがよくわかる。
ラムに惚れられるのはそりゃ羨ましいけれど
あたるが日々直面する、
ハラハラドキドキの事件こそが
僕らが憧れていた世界であり、それを並べて、
マンガチのリリース第一弾に持ってくる、というのは
相当「できる…!」感じがする。

今回僕は購入していないけれど
マンガチの「Ikkokukan」も
同じような気持ちでディレクションされたのは
想像に難くない。

あと「Ataru」は#4に並べられているけれど
「マンガチ」のコンセプト的には
コマを並べたこれが#1であるはずで、
それを#4にしたっていうのは
これは完全にプロの犯行だと思う。

考えてみれば当時リアルタイムで
ファンをやっていた世代の人たちの中には
組織の中でこうした意思決定に関われる立場に
なっている人もいるだろう。

そうした人が、何十年も経って
自分の好きだったことを
自分が力をつけたその分野で世に出す、というのは
実にロマンチックな話である。
そりゃがんばっちゃうよね。

さて#1「Lum(blue)」のほうは
これはこれでなかなか良い。
できれば絵柄はリピートせずに
全部違えてほしかったけれども。

リピート頻度が
Ranma1/2 characters」のほうが低いあたり
「さては担当者はらんま勢か!?」と
思わんでもない。


まぁそれにしても結構な出費だった。
ハンカチなんて自分で買ったことないのに
(そもそもハンカチは贈答品で賄うものと…)。

「うる星」における2020年っぽいキャラ

この「るーみっく おーるど」では
一時期までの高橋留美子作品を取り上げていて、
それは僕の個人的な好みによるものだ。

一時期以降の氏の作品には
あまり触れることはないのだが、
先日「うる星」をざっと読み返したときに
現在の氏の作風の源流を
垣間見たような気がしたので
今日はその辺を書いていこうと思う。

言い換えれば、「うる星やつら」のなかで
現在の高橋留美子氏の作風でも
やっていけるんじゃないか、というキャラや
エピソード、ということになるだろうか。

まず最初は花屋のねーちゃん(7-8)。

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天然ボケという言葉が
いつ頃から使われ始めたのかよく知らないが、
石原真理子だとか田中裕子だとか、
あるいは桃井かおりとかが
TVでいじられていた頃だろうから
結構古い話である。

他人を意に介さない感じ、
どこか上ずっていて空虚な感じ、
そういうところが今の絵柄でもいけそうだが
ではこのねーちゃんが
2020年の漫画シーンで通用するかといえば
そういうわけでもない。

怪猫の美鈴さん(8-4)も
今の絵柄でいけそうである。

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見た目はたいへん魅力的なのだが
どこか演じている風な感じがする。
したたか、という側面もあるのかもしれない。
というか、どこか他人事のような乾いた感じが
今の高橋留美子氏の作風でも
「あり得る」と思うのだ。

幽霊のお玉(10-4)。

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この辺でわかってくるのだが、
ギャグ──というより笑いの質──が
独特なのだ。
予定調和というかシャンシャンな感じというか
スベり笑いというか。
寒いギャグの、寒さがギャグになるような。

スーパーデリシャス~~キッド28号(22-8)も

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笑いのネタとしては古いわけだが
狙っている空気感としては
今の高橋留美子作品のものに近い気がする。

白けるのだが、
その白けた感じがネタになっているというか。

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(画像は30-8 御前崎ちゃん)

頭の悪そうなキャラを描くと、
現在の高橋留美子作品っぽいテイストに
なっている気もしていて、

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画像は“いじめられていた女子”(23-2)だが
わりと白痴的である。
そういう感じが今の高橋留美子作品っぽい、
と感じるのはつまり、今の氏の作品を、
僕がそう思っているからなのだろう。

白痴的といっても
バカだったりとか成績が悪かったりとか
そういうことを指摘しているのではない。
意思が薄弱そうなキャラに対して
僕はそう感じるのだ。

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例えば星屑カンナ(29-7)も
竜之介を口説く時の気迫はあるが
基本的には「やらされている感」がすごくあって
キャラとしての魅力に乏しい。

うる星やつら」の終盤ぐらいから
因幡クン(31-7)と

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潮渡渚(32-8)というキャラが出てくる。

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この二人の、髪の毛のスクリーントーン
今の高橋留美子作品に通じる要素で
(渚は生身化するまで限定だが)、
作画のテクニック的なことは
よくわからないのだが、
頭部/髪が、たいへんフラットだ。

キャラを軽く薄っぺらく感じさせるように、
という加工なのかもしれないけれど、
感情の発露がない、
閉じた自己完結型に、僕は感じるのだ。

そういうキャラを描くための手法が
今の高橋留美子氏の画風であるような気もする。

それが、作者が社会を、また読者を、
そう見ているということなのだろうと
僕は思う。

もっとも、熱い漫画を描いても
支持を受けなければ、ビジネスに結びつかなければ
ただの徒労になってしまう。
高橋留美子氏が描きたい漫画、
漫画界のために描かなければならない漫画、
読者が読みたい漫画、
それらが一致する時代が来るといいのだけれど。


ええと、14-5(4) で出てきた貝の妖精は

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絵柄でいうと
最近の高橋留美子氏のタッチで再現可能な
影の薄さがあるんだけど、キャラがとてもよくて
そのポンコツっぷりや薄幸っぷり、
そしてそれに甘んじているヘタレっぷりが
今どきのオタクのおっさんに刺さるキャラなので
強く推しておきたい。
アニメでは確かエル役の榊原良子さんだったと思うけど
おどおどというこの台詞が
色っぽくてとてもよかった気がする。

でも「いいです……」はもうひとつだったかな。

乳房の作画

うる星やつら」には結構エロネタが多い。
購買層を考えれば妥当なところだし、
一時期の漫画界は、
エロに突っ走っていたこともあったし
(スピリッツのSEX増刊とかあった頃)、
まぁそりゃそうだろうな、と思う。

姦淫ネタもあるけれど、
胸に触る、胸を見る、というネタが特に多い。

高橋留美子氏がお好きなほうなのか、
担当編集者によるものなのかは
よくわからないところだが、
高橋留美子氏が、女性の裸を描くのが好きなのは
おそらく間違いないところで
性癖的には手塚治虫氏の嗜好を受け継いだような
マテリアルとしての女体が
好きなのではないかと思う。

例えばコミックス26巻の8話、
「妄想フーセンガム」で
産み出されてくる女体らがそうだ。
くねくねとしたポージングは
アニメ「千夜一夜物語」や
クレオパトラ」を思い起こさせる。

ただ、それにしては、それにしてはだ。
高橋留美子氏は、
どうも女性の胸に対する思い入れが
少なすぎるのではないかと思うのだ。

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33-10 ハートをつかめ


巨匠の画風にケチをつけることになって
申し訳ないけれども、
時に、たいへんがっかりするような
胸の作画が見受けられたのは事実である。

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14-1 クラマ再び!!


基本的には高橋留美子作品の女性は
(貧乳を売りにしている場合を除いて)
グラマー設定だと思うのだが
(グラマーといっても、昨今の巨乳ブームに比べれば
健全な範疇ではあるのだが)、
まるでただの瘤のように
乳房が描かれていることがある。

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22巻表紙


特にカメラ側──つまり身体の
輪郭の中に入るほう──が
おざなりになる傾向がある。
胸の谷間の位置取りのせいで
乳房の外側が脇に入り込んでいってしまうのだ。
また、乳房の下部に丸みがなく
堅そうになっていることもある。

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19-3 岩石の母;前編


胸の谷間の位置が適正であれば
乳房もあるべきところに収まるし
形にも丸みをつけられる。
コミックス30巻の表紙などがそうである。

たぶんなのだけれど、
高橋留美子氏の場合は
女体を描くときに、
フリーハンドで手が勝手に
すらすらと輪郭を描いてしまうのではないだろうか。
女体のくねりやフォルムについては
きっと一発描きで決めてしまっているのだろう。
そこに胸を足していっている結果なのではないか。


わかんないけど。


ちなみに「うる星」ばかり引き合いに出したが
「めぞん」にも、残念なバスト描写がある。


そりゃそうと、高橋留美子氏の絵では
乳房の位置が比較的上のほうに描かれている。
この、垂れてない乳房位置、というのに
好感を覚えているファンは、
少なからずいるのではなかろうか。


それにしても、
この文章のためにざっと「うる星」を読み返したが
この作品はポリティカル・コレクトネス的に、
また性的消費・性的搾取的に、
やっぱりアウト過ぎる。
よく新装版出し続けられるな…。

まぁ主に戦犯いや被害者は竜之介と飛鳥なんだが。

もしかして新装版では
いろいろと改変されているんだろうか。
まったく買ってないのでわからないけれども。
機会があったら比べてみたいものだ。

「オンリー・ユー」のBGM

さて「オンリー・ユー」だが、
セカイ系のはしりともいうべき
ビューティフル・ドリーマー」が
思春期の僕を熱狂させたことに比べて、
「オンリー・ユー」は
実はそれほど興奮をもたらさなかった。

何といっても作画監督
遠藤麻未氏が入っていなかったことが
僕的には大きい。
それまでのTVシリーズにおいても
可愛いラムは
遠藤麻未作監の時にしか拝めなかったので
劇場版予告編を見た時の落胆といったらなかった。

「オンリー・ユー」よりも、
できのいいTV回を
繰り返し見たほうが充実感があった。

「うる星」のアニメは子供向けじゃない、
そういう自負を持って視聴してきたのに
「オンリー・ユー」のやや幼稚な演出は
僕を悲しくさせた。
「影踏み」をする幼児のあたるとエルや
「影踏みのワルツ」は
子供を持つ親の世代になら
また違った感慨をもたらしたのかもしれないが、
未来を信じていた僕には
身体にまとわりつく大人の道徳論のような
気持ちの悪いものだった。

だから「オンリー・ユー」のストーリーは
好きじゃなかった。

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91分 17,800円なり


ただ生活の回りに「うる星」は感じていたくて
「オンリー・ユー」についても
外すことはできなかった。

貯金から公式ビデオも買ったけれど
その頃は動画を携帯する術はなく、
だから「オンリー・ユー」のBGM集のレコードから
カセットテープにダビングをしたものを
ウォークマンでいつも聞いていた。

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原作絵ジャケットが誇らしかった


その頃はフュージョン音楽も
それなりに流行っていたので、自分の尺度では
映画のサウンドトラックを日常的に聞いているのは
「有り」だったのだ。

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対してドラマCDのこのジャケット…


「オンリー・ユー」のBGMは数限りなく聞いた。
なんなら今も、ネット麻雀をする時に
かけていたりもする。

「オンリー・ユー」にも断片的な名場面はあって
それらにはとても価値を感じるが、
ビューティフル・ドリーマー」よりも
圧倒的に秀でているのはこの「劇中BGM」だ。

アニメ「うる星やつら」のBGMについては
「WEBアニメスタイル」さんの第171回、
「テクノポップがいちばん ~うる星やつら~」
が詳しいが、とにかくシンセシンセした音、
またドタバタシーンでの早弾きなどは
次世代感があって、
僕の自己肯定感も満たしてくれた。

「オンリー・ユー」のBGMはそれにも増して
各シーンのキャラの心情の表現、
観客の気持ちの増幅に
強く強く作用しているところが
実に「作品のBGM」としての働きを全うしており、
たいへん素晴らしい。

当時、どのアニメ雑誌から情報を得たのか
もうわからないが、
「うる星」のBGMスタッフが
オリジナルの楽曲を集めたレコードを出したと聞いて
それもそそくさと入手した。
「TPO 1」である。

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むろん取り寄せであった(当時)


当時はこんなマイナーなレコードを持っているのは
自分だけだろうと思っていたが、
数十年経った後にamazonで検索してみたら
CD版が出ていたのには驚いた。
それだけ需要があったから
CD版が出たということなのだろう。
また、「TPO 2」については知るところではなく
こちらについても驚いた次第である。

CD版といえば「オンリー・ユー」のBGM集のCD版は
現在では少しプレミアがついているようである。
僕の場合は後年、
レコードをデジタルデータ化して聞いていたが
テクノはテクノらしく、もともとデジタルなものを
聞いてみたいという気持ちがあって、
HARD OFFでたまたま巡り合ったものを購入した。
そもそも流通量がかなり少ないようだが、
無理して入手しなくてもYOUTUBEで聞けるようだし
あまりプレ値がはびこるのもどうかとは思う。

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B.DのCDもそうだがこのトリミングっぷり



僕の場合は「オンリー・ユー」のBGMが
きっと青春という時期への
架け橋にもなっているのだろう。
思い出補正バリバリというやつである。
だが、BGMを聞けばシーンが浮かぶ、というのは
汎用のTVシリーズ向けBGMではあまり無いことだし、
逆に劇場版であれば
何度も見ないと刷り込まれない、ということもあって
映画館の入れ替えがなかった時代、であるとか
ビデオを手に入れ、
テレビで放映されればそれも見る、という
ヘビーローテーションを経た結果ともいえるのだから
僕にとってはとても大切な、
大事にしたい記憶とモーション、なのである。

いちるーみっくファンから見た「エル」

一介の漫画ファンでしかない一般人の僕には
メディアによって伝えられることでしか
情報を得る術はない。

それを鵜呑みにすることは
見事に踊らされていることかもしれないけれど、
僕のような一般人は、
それを拠り所にするしかないのだ。


劇場用アニメ「うる星やつら オンリー・ユー」は
スタジオぴえろによるオリジナル作品である。

初の劇場版作品という舞台の
メインキャラクターとして、
またラムと敵対する強力なライバルとして
「エル」という、星の王女が産み出された。

「エル」というキャラは鳴り物入りで告知され、
その強大さが、作品のスケール感を醸し出すような
そんな風に扱われていたが、
当時の僕は、エルに対して
困惑と違和感を持っていた。

まず見た目だが、エルは髪が短い。
ショートカットの女王なんて聞いたこともない。
活発、自由、意志の強さ、
ショートカットから感じさせられる
そういったニュアンスが
どうにもストーリーとちぐはぐである。

周知のことだがエルのデザインは
原作者の高橋留美子氏によるものだ。
だが、おそらくエルの、キャラクター設定への
高橋留美子氏の関与は薄いとみている。

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髪に飾ったバラは白バラだが
そこは白バラであるべきなのか


そもそも、「バラ」というのが気恥しい。

そんな気恥しい「バラ」をモチーフとするなら
何かしらの必然性を持ってこないと
恥ずかしくて悶え死んでしまいそうになるのだが
エルのバラには意味がない。

綺麗なバラには棘がある、の棘が
あのコレクションだったということなのか。
だがその程度の二面性は、
「うる星」のキャラであれば
誰しも持っているものなのだ。

エルのコスチュームに施された棘の蔓は
己が縛られていることを表しているのか。

だがエルは結局、
気高く王女として生き続けることを選んだ。
この、本当の自分を押し殺すという生き方は
うる星やつら」のキャラがやることではない。

後年、「オンリー・ユー」への
アンサーストーリーであるかのように描かれた
「ボーイ ミーツ ガール」編のカルラと比べると
エルはあまりにも高貴で隙がない。
美男子のコレクションがあたるにバレた時に
うろたえてみせた際のそのうろたえ方でさえ、
あまりにも上品なのである。

つまり、作品世界に馴染んでいないのだ。

だから、エルがラムの好敵手になり得るはずがない。
あたるが本心からなびくわけがない。

ドタバタストーリー中の、障害としてのエル。
わりと救いのない話である。

高橋留美子氏は、「オンリー・ユー」において
エルというキャラの使われ方に
喜んだだろうか。

まぁ、エルに愛嬌を与えたら
クラマ姫になる気もする。
後年クラマ姫が
あたるの被害者になっていくことを考えると
エルが原作世界で登場していたならば
きっと同じように面白おかしい日常を
繰り広げたことだろう。

「オンリー・ユー」についてはもう少し続きます。

「うる星やつら」より ep.「お雪」

さて今回のお題は
うる星やつら」コミックス2巻より「お雪」である。
通算でいうと第10話目、ということになるだろうか。

昭和54年に掲載されたエピソードとなるが
この頃はアニメ「まんが日本昔ばなし」も
バリバリにやってた時代で
老若問わず、日本人に
伝記・古潭が浸透していた時代だ。

創作において昔話をモチーフにすることは
ウルトラマンタロウを持ち出すまでもなく
よく行われることだが、
ナウなヤングが読むアバンギャルドな「うる星」と
昔話とではカラーが全く違う。
だがこの「お雪」エピソードで上手いなぁと思うのは
あたるの「半纏」や「和布団」、
押し入れの「ふすま」という
日本らしい小道具/舞台背景によって、
無意識のうちに読者の感覚を
古式ゆかしい日本に引っ張り込んでいるところだ。

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半纏もいいが、毛糸のマフラーも昭和ノスタルジーでとてもいい。


あたるに風邪をひかせているのもいい。
風邪→寒い→雪、と導入として素晴らしいし、
最後のオチにもピリッと効いている。

この頃の設定としては
しのぶがまだ正妻であり、
その立場を充分に活かしているのも
あらためて新鮮である。
ラムがいない隙を狙って、
肉体関係はともかく
キスぐらいは期待している節さえうかがえる。

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島津冴子の声で再生されるのはやむなし。


ただ正妻としての権力は全く発揮できておらず、
浮気の状況を目の当たりにしながら
世間一般的な良識を要求するあたりは
つまりしのぶが「一番の恋人」ではなく
「口うるさい古女房」であることを
表現しているようだ。

その古女房には逆らえないが
きれいな女性にはついだらしなくなってしまう、
ここの表現は、
ただのエロ狂いな高校生というわけではなく
サラリーマンの悲哀のようなペーソスを描いていて
まさに昭和なのだが、
個人的には大好物である。
この感覚が、アニメ版ではできていなかったと思う。

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このペーソス感!!


あたるの部屋に来たおユキが
シャベルを担いでいるのは
彼女が自星で先頭に立って雪かきをしていたからだが
それが明かされるのは少し先である。
だから最初のうちは、
和風美女がシャベルをエンヤコラと担いでいる図を
唐突なシュールギャグとして味わうことができる。
たいへん素晴らしい。

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この不条理な感じ!!


おユキの星に転落(?)した時の
画面構成も秀逸だ。
上下さかさまから転がっていく様子が表れている。
この手法はたいへん動画的で、
だから「うる星」が、漫画でありながら
脳内では動画として再生されることを
目指した作品だということがよくわかる。

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最初に見える(見る)のがラム、という演出


さきほどアニメ版の話を少ししたが、
おユキのキャラもアニメ版では
ちょっと変わってしまっている。
アニメ版ではとにかく冷徹・クールな性格、と
描かれていたが(ユーモアはあったが)、
原作初登場時点では、結構表情豊かである。
血の通った感じもあって、
だからこそあたるとの情事寸前の様子が
「たまらん」のであるが、
アニメ版のほうでは
少し幼稚なものになってしまっていた。
超ゴールデンタイムに放送されていたのだから
やむを得ないといえばやむを得ないのだろうが、
小原乃梨子の声質はともかく、
発声の演出が、
今から思えばちょっとズレていたような気もする。

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アニメ版ではおユキのこの類の表情は
見られないのが残念だ


今回読み直して気になったのは
「B坊」の元ネタだ。
まず名前であるが、
雪男、ビッグフット、雪女の下男、
雪女のあっちの世話をする者、
あたりを検索してみたが
引っかかるようなものは見つけられなかった。
「ビーボ」「ビーボー」も関係なさそうで、
となると連載当時の他作品のネタか、
あるいは怪獣映画のオマージュか、
関係者のキャラクター化か、と思うのだが
本当のところはわからない。
古参のファンの方はご存じなのだろうか。

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額のうさこちゃんも何かのネタなのか


ネタとしてはもう一つ、
新聞配達に絡めて
「勝手なやつら」が投入されている。
ファンにとってはもちろん
すんなり受け入れられるギャグ(サービス)であるが
ただのサンデー読者には、「下に~、下に~」と
群衆の土下座の意味が分からないはずで
現代であればせいぜいが、
ケイが新聞配達している様子にとどめる、と
なってしまうだろう。
このあたりのおおらかさも、
失われてしまった「漫画の良さ」であり
それを味わえるこの「お雪」は
たいへん名作だ、と僕は思うのだ。

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全宇宙は危機的状況が続いている最中らしい

キャラクターの髪の色

先週、古いアイテムを掘り出したことで
アニメ「うる星」初期のほうへ
意識が行ってしまったのだが、
実は、実はもなにも僕は、
アニメ以降のるーみっくファンである。

だからアニメ化にあたっての、
原作ファンの動向などはわからないのであるが、
そんな僕でも、
原作とアニメを見比べることによって
なんか違うな、と思っていたことはある。

「うる星」が
キャラの力で牽引された作品であることは
ほぼ間違いなくて、
多数の美少女キャラが出てくることからも
「俺は〇〇派」
「いや俺は□□のほうが」
という情熱は、
アニメ以前のファンの中にも
あったに違いないのだが、
アニメで改変されてしまったキャラのファンは
どういう気持ちだったのだろうか。

顕著なところでは、おユキの髪である。

言うまでもなく原作のおユキの髪は氷でできていて、
透明で硬質な質感で描かれているのだが、
アニメでは薄紫の髪の「毛」となっている。

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SF感ゼロである


雪女というモチーフから考えると
これは冒涜クラスの改変なのだが、
1981年当時のアニメ制作環境から考えれば
氷の質感を書き込めというのも酷な話である。
致し方ない改変と言えるだろう。

髪の色といえばランも、
原作とアニメでは雰囲気が違う。
原作でもカラーでは確かに、
ピンク系の彩色がされているのだが
スミ一色の本編において、
ランの髪は黒ベタとされており、
特にハイライトの描写もないことから
「黒髪の美少女」と捉えて
ファンになった方もいらっしゃるだろう。

アニメのほうの言い分もわからないではない。
フリフリの衣装を着た巻き毛の少女が
黒髪というのでは、どうにも解釈が難しい。
ピンク髪にしたほうがわかりやすい。

もしかしたら原作者に
お伺いを立てたかもしれないし。

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記号としての今どきのピンク髪キャラとはまるで違う


ただ、黒髪のランというのも
なかなかに味わいがあると思うのだ。
そして、原作においてランが黒髪だったのは
必然があったからだと思うのだ。

日本人的な奥ゆかしさであるとか、
髪を染めるようなことはしないタイプだとか、
しかし怒った時には
深淵の吸血鬼のような重厚感があるとか。

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牙といい、吸血鬼。


昔の漫画で描かれる「スケ番」の中でも
義理人情に厚くて操を立てるタイプは
なぜか黒髪だったものだが、
そういう雰囲気も感じさせる。

もっとも、そういう役どころとしては
弁天がいるので、
カブってしまうのを避けた、ということも
あるのかもしれないが。

とまぁそういったことから、
当時のランちゃんファンは
結構違和感を感じたんじゃないかなと思うのだが、
今となっては昔話である。

ところでこの記事を書くために
コミックス2巻の「お雪」を読み返したら
めちゃくちゃ名作だったので、
次は「お雪」を取り上げます。