ぼちぼちと更新していければ

(毎週土曜日中の更新を目指しています)









『人魚の森』レビューその10


巷では令和アニメの4クール目が始まったようで
桜咲く春でありますね。

先週、ネット界隈では
しゅん○ さんのラ○ーノーズ関連のnoteが
話題に上っておりました。

僕はその方のことを存じ上げていませんでしたし
何ならその対象のアーティストさんのことも
まったく知らなかったんですが
一連の記事や、それに対するコメントを読んでいて
ちょっと怖くなってしまいました。

何がっていうと、
作品についてレビューや感想を述べること、
また必ずしもポジティブではない、
批判的な意見を述べること、についてです。

件の記事においては
一方的な恋心が抑えきれなくて、という感じもあり
純粋なファン活動とはちょっと違う気もしますが
作品の向こうに生身の表現者がいる、
というところでは
漫画やアニメ作品に対するレビューも同じです。

古の昔から批評というものはあり、
例えプロの評論家でなくても
正直な自分の感想を述べる権利は誰にでもある、
そう思ってきましたし
例えばディズニー製スター・ウォーズを巡っては
まさに大きなスケールで
それが行われているわけです。

だからそれは文化の一端であると、
そう思ってきたのですが
2024年の世の中で
ポジティブな感想しか見たくない、という人が
それなりの比率で存在していることを
この一件でまざまざと見せつけられたというか。

アンチのためのアンチ、
いわゆる覇権争い(というより覇権乗っかり争い)
のようなものは論外としても、
批判的な意見を言うことが
ハラスメントと受け止められてきつつ
あるのではないか。

ちょっとそんな感じがしたんですよね。

うーん、そんな世の中はいやだなぁと思うけれど
下ネタ親父ギャグがセクハラとなり
NGとなったように、
世の中の動向がそうなれば
そうなるのかもしれません。

このブログはちっぽけで
心配にはあたらないのかもしれませんが
よく考えて進めていかなくてはなりませんね。



なんか変な前置きになってしまいましたが
今回は『人魚の森』のレビュー第10回をやります。
前回「その9」はこちら


先週、佐和が死んでしまうところまでやりまして
後はエピローグを残すのみとなります。


旅を再開する二人。

真魚は「一人で生きるというのは辛いことなのか」
と湧太に聞きますが、『人魚の森』では
「一人で生きていた人」っていうのはいなくて、
だから真魚の問いかけは
一人で生きてきた湧太のことを
聞いているようにみえます。

でも しかしエピローグですから
『森』の何かに かかっているのではないかとすると
「(登和は)一人で生きればよかったのに
なぜそうしなかったのか」
であるように思います。

登和がそうしなかったのは
復讐だけが心の支えということなのか、
彼女には他に何もないということなのか。

高橋留美子氏は、描画されている以外のことを
観せようとしている感じがします。


そんな真魚の問いかけに湧太は
「おれがいなくなったらどうする?」と
質問に質問で答えます。

真魚のどういう返答を期待していたかというと
「悲しい」だとか「寂しい」だとか、
つまり「一人じゃ辛い」と
答えさせたかったわけですが
真魚は「捜す」と無邪気に答えます。

「一生捜す。」とまで言っており、
これは他には目もくれない真魚の一途さ、
湧太が自分を裏切るわけがないという信頼、
そういう“純愛”ともいえる気持ちの表明であり、
こんなこと言われたらそりゃ裏切れませんわね。


というわけで、『人魚の森』のお話は
これでおしまいですが
僕は今回改めてこの作品を読んでいて
なぜこの作品が表題作なのか
ずっと考えていました。

なぜ『笑わない』ではなく『森』なのか。

人魚シリーズ“らしい”のは『笑わない』です。
なのになぜ?と考えるに
作者のお気に入りだからかなぁ、と思うんですね。

つまり、『人魚シリーズ』らしさよりも
高橋留美子劇場』的なエッセンスを
『森』では込められたから、
『森』が表題作なのかなぁ、と思うんです。

で、そう考えると
ちょっと深読みしたいところがあって、それは
「佐和は実は善人だったのでは」ということです。


佐和の全ての行為は善意から行われたことだった

しかしそれは恐ろしい結果となった

登和は佐和を憎むが、
佐和は登和への罪悪感から
申し開きせず、その憎悪を引き受けることにした

そして佐和は黙ったまま死んでいった

佐和の真意を知らぬまま、登和もまた悲嘆にくれる


物語に隠された真実がこうだったら、
作品の格が一段上がりませんか?

でも読もうと思えばそう読めるんですよ。


webの検索では
同様の意見は見つけられなかったんですが
どなたかおっしゃっていたでしょうか……。

geocitiesが生きていたらあるいは……ですが。

人魚の森』はアニメ化も2度されていて、
それを見たら(作者が関与していれば)
あるいはそういう解釈が
匂わされたりしているかもしれませんが、
僕は見たことないんですよね…。


で、もしもそうであれば
人間ドラマとしてこれはすごいです。
そしてトリックを上回るトリックとして
作品の格がめちゃくちゃ上がります。

ぜひお試しください。
お試ししてほしくて、レビューを長引かせました。
切ない佐和ちゃんの話を読んでみてください。

↑ もしそうだったらこの時の佐和の気持ちは。



それでは、この辺で。

〈おしまい〉