さて、今回で「顔面仲間」のレビューも最終回だ。
終盤の、装四郎と明子のイチャコラパートについて
つらつらと書いていこうと思う。
この黒目がちな表情は、
思い起こせば高橋留美子作品ではわりとテンプレで、
2021年現在に読むと
「テンプレで果敢に挑む明子」がギャグ、
という風にも読めるのだが、
もちろん当時は明子部分はシリアスである。
この、読者のスキルの変化で作品の意味が変わる、
というのはとても興味深い事象だ。
おやじは老けてるのに母親は若いなぁ。
まぁそもそもおやじ何歳だよって話だが。
40代には見えない。役職は教頭だし。
装四郎が18歳として、おやじが50代前半なら
30代中頃の子供か。なくはないか…。
母親はレトロな昔風で、
戦後すぐの小説に出てくる「綺麗な母」
というようなイメージだ。
後に姉さんかぶりで出てきたりもするが、
慇懃な言葉使いといい、
たぶんこのキャラ設定自体が
ナンセンスギャグの一環なのだろうな。
令和から見るともはや、
「昭和のセイカツ」って
こういうものだったんでは?と
普通に受け入れてしまいそうなのが
時の流れって恐ろしい…ということでもある。
装四郎に化けた親父。
叙述トリックといえるこの仕掛けが、
わずか1ページ程度で消費されているのは
ちょっともったいない。
しかし考えてみれば、
この作品中でこの場面以外に
叙述トリックが仕掛けられていないとは限らない。
例えば部員が顔に落書きされていた場面での装四郎。
初代部長に対する言及の内容も、
変装した親父が言っていても
おかしくないようになっている。
もっとも、
トリックと断定できるヒントもないけれど。
せっかく変装がテーマなのだから、
その辺りでもっと楽しませてもらえるとよかった。
女の子側が色ボケしているのが
ランちゃん風ではある。
コミックスではよく読み取れないけれど、
この表札の文字は「面 装三郎」だろうか。
ということは装四郎は長男か。
作品からは兄弟の存在を感じ取れないけど、
いないとも限らない。
着替えも確保できてないのに服を脱ぐ女。
どストレートなサービスカットはともかく。
後ろでも出てくる、「上か下か」ってのは
どうなんすかね。
「下」って言われたらそりゃ、
読者だって明子の下を意識するだろう。
でもエピソード的には、
そんなこと別に重要じゃない。
「ハダカを見られた」で充分なのだ。
この歳になると、そういう表現が
作品の品を悪くする、と思ってしまうのだが
ターゲット想定である(当時の)中高大学生には
ぐっと刺さるだろう、ということで
使われたネタだったんすかね。
まぁ、それを含む発情期の高校生たちを
「変態!」と一刀に斬るのが
この作品の主題であるとも言えて、
実に正しいのかもしれないのだけれども。
「こんなことしなくたって『 』」
「あたしはいつだって『 』」
で、装四郎の家に
超ミニスカートで来る明子なのだから。
でもだったらペンキの悪戯に
そんなに怒らなくてもいいんじゃないか、
むしろ待ってました、な展開なんじゃ?
と考えるのは、
「ToLoveる」とか「幽奈さん」みたいな
新時代のラッキースケベ物の
読み過ぎかもしれない。
この、偽装四郎の表情は秀逸だ。
作品内で装四郎が一度もしたことがない表情、
達観したおっさんの表情、
煙草の助けを借りなくとも、
一目で偽装四郎だとわかる。
階段を降りてくるというのも、その立ち位置で
装四郎との上下関係を暗示していて
たいへん面白い。
装四郎は別に、
変装で身を滅してはいないけどな。
変装する変態によって、という
回りくどい感じを言いたかったのか。
まぁこれ、おやじの自爆への布石なんだろうけど
ちょっと無理があるなぁ。
三か条にしても
人前で使うべからず、というのは
ずいぶん厳しい規律である。
仲間とこっそり楽しむべし、とでもいうのだろうか。
ではおやじの変装の秘密を知っている母親も、
高校時代の変装仲間なのだろうか。
さて終盤は5ページに渡って
装四郎と明子のいちゃつきが描かれる。
お互いに好きあってるのは明白なので
勝手に夫婦喧嘩やってろという感じだが、
どういえば・何を言えばよかったのか、
そりゃもちろんオチにあるように
「好きだ」と言ってくれ、と
明子は思っているわけである。
しかし。
裸を見ました。
見たくて見たわけじゃ
好きだ。
って、話の持っていき方としてどうかと思うけど。
明子的にはそれでいいのか。
まぁヒステリー起こしてるし
どさくさに紛れて逆告白してるし、
明子の無茶に付き合う形で
覆水盆に返ったということなんだろう。
最後の仕掛けとしてのこの告白。
変装せずには恥ずかしくてできない、
とても口に出しては言えない、
というのはわかる。
このやり方が、変装部部長の俺らしいのだ、
というのもわかる。
しかしなんでメッセージを口に書いたのか。
顔に書くこと自体は、初代部長のやった
顔への落書きを模した行為だということでいいが
なぜ口なのか。
ごめんなさいされたらどうするのか。
まぁ、全ては最後のオチに向けて、ではある。
教頭の「変態!」は、
この作品全体にかかっている。
「『われら顔面仲間』レビューその1」では
深読みしてみたけれども、
「文字が反転していたらキスが自明でスケベだよね」
っていう、
「わー変態だ、変態だ!!」っていう、
そういう作品なのかなぁ、と思う。
やってることは「めぞん」の中盤辺りと
一緒なのかも。
《おしまい》