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鮮やか軽やかお助けコンビ!『がんばり末世!!』レビュー その2


さて、『がんばり末世』のレビュー2回目です。
前回はこちら


70年代のバラエティ番組のパロディだが
ひな壇に座っているのがお笑い芸人たちではなく
市井の人々というのがもはや新鮮だ。

街頭インタビューは今でもまだ存続しているが、
無作為に選ばれた一般人を壇上に上がらせるなど
危なっかしくてもうできないのだろう。

『勝手な…』からのゲストは置いておいて。

描かれた司会者にモデルはいるのかな?
僕では少しその年代に届いていないのだが、
もしかしたらザ・ぼんち
「そうなんですよ川崎さん」の元ネタである
アフタヌーンショーの川崎敬三氏かもしれない。

ジジババに「竜華三会の説法じゃ!」と
ありがたがられたこの弥勒の台詞。
せっかくなので調べてみよう。

芙蓉蟹=フーヨーハイ、かに玉
蝦仁吐司=ハトシ、エビのはさみ揚げらしい
如意蛋捲=えび入り卵巻きらしい
西紅柿蛋花湯=トマトと卵のスープらしい
白菜丸子湯=白菜と肉団子のスープらしい
八宝菜=これはまぁ八宝菜
焼売冷麵=よくわからず。焼売を乗せた冷麵?
 中国には“焼冷麵”という料理もあるらしいけど。
餃焼飯=これもよくわからず。
 Google翻訳しても“饺子炒饭”になっちゃう。

いやーこんなの、GeoCitiesが生きてたら
絶対 先人が調べてるよな…。
GeoCitiesを失ったことは人類の損失だよ…。

弥勒菩薩が着ているお召し物には
宇宙ロケットなどの意匠が施されていて
なんだこれこんなスクリーントーンあったのか?
などと思ったけれども手描きのようだ。
他の数コマでも同様の描き込みっぷり。すげえ。

弥勒菩薩はおしゃれさん設定なのか、
作品中で召し物を実に7回、着替えている。

 

 

 

これは絶対に意図的なので
読者としてはぜひ汲み取りたいところだ。

後光大輔もイモ柄のネクタイをしてるけど
わかりにくいなぁ…。


いや~何が面白いって、この

年寄りとヤングの対立が、
昨今ではジェネレーションギャップに留まらず
格差社会の影響もあって
世代間闘争として現実化しつつあるところだ。

『がんばり末世』が予言しているとは言わないが、
うまく令和の世相の皮肉になり得ているので
実に面白い。

物価上昇を嘆く主婦仲間。ほんまになぁ。

弥勒の辻説法を足蹴に、イモに群がる民衆。
この、イモ(サツマイモ)っていうのが
第二次世界大戦後の貧しい戦後ニッポンの
忌まわしい記憶にも結びついて
シニカルな笑いになっているわけだが、
はだしのゲン』も学校から撤去され始めた昨今、
イモが貧しさの象徴だとは
伝わりにくくなっているかもしれないなぁ。

失意の弥勒につけ込もうとする怪しい男。
黒メガネの原型かな?

芸能プロダクションの男に
「まあまあのスタイル」と評される後光大輔だが
股下82cmは“まあまあ”じゃなくて、すごく長いぞ!

芸能界入りした後光大輔はレコードデビューもする。
潰れかけてわかりにくいがこのコマは、
大人たちが『モスラ』や『大魔神』のレコードを
漁っているのに対して、女子高校生が
『イモ掘りロック』を手に取っているという
細かい演出の利いたコマだ。

 

ブロマイドの売り上げチャートに
“中性の部”でトップの弥勒菩薩
“中性の部”というのが
インテリジェンスなギャグなんだけど、
性の多様性が叫ばれる令和の世では以下略。

「女の子の意識がここまで低いとは……」
と嘆く、主人公の後光大輔。
念のために言っておきますが、
作者の高橋留美子氏は女性ですからね。

まぁしかし“一億総白痴化”なんてのは
ホスト狂いの貧困女子よりは
はるかにマシなのかもしれないですが。

弥勒菩薩と後光大輔は
さらなる人気獲得のためにコンビを組むことに。
なにその自公と維新みたいな話は。

ラストのコマは歌番組のステージ。


ひな壇には控えた歌手たち。
うまく特徴をとらえているので
全員元ネタがわかりますな。

コンビを組んで「がんばりまっせーっ!!」という
お助けコンビ。
こういう我欲のための連立も、
もはや漫画だけの話ではなく。

この漫画ではTVディレクターたちが
善意として立ち回っているけれども、
今の現実社会では
マスメディアも共謀して世論操作に
精を出しているわけで、
漫画以上に恐ろしいったらないですわい。

前回も言いましたけど、
芸能界や宗教界に激震が走った2023年、
この『がんばり末世』を読むには
絶好のチャンスだと思うんですよ。

ぜひ再読をお勧めいたします。

そういえば前回ちょっと触れた
ラストシーンについてですが、
『腹はらホール』のラストの

「日本の食料自給率0.01% 食料輸入の道なし!!」
という皮肉めいたエピローグが汎用性高すぎて、
『がんばり末世』のラストの
「がんばりまっせーっ!!」の後にも
容易に繋がっちゃうんですよね。

これも現代ニッポンのどうしようもなさに対する
厭世感のなせる業なのかもしれませんが。

選挙は絶対行きましょうね! 〈おしまい〉