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現代のニッポンも原材料高騰で食糧危機に突入中!?『がんばり末世!!』レビュー その1


今年の日本レコード大賞
YOASOBIの「アイドル」が
ノミネートされなかったことが
一部で話題になっていて、
そんじゃまあ『がんばり末世』のレビューでも
やりましょうかね、と。

 

この作品は
単行本「ダストスパート!!」にも掲載されていたし、
短編集「1orW」にも載っていたので
結構知名度はあるんじゃないかと思います。


ではまず扉絵から。

女キャラが登場しない硬派な絵です。
弥勒菩薩の後光や
後光大輔の腕にかかった紙テープなど、
作画が細かい。
やらずに済ませることもできたことを
わざわざやっているというのは感銘を受けます。

1コマ目にしても、
バックネットなんて 作画めんどくさいよね。
でもそうしたほうが良くなるから描いたのでしょう。
クリエイティブってそういうことだよね。

この1コマ目では、
バックネットの裏に追いやられて
肩身の狭い思いで活動する園芸部、という状況が
読み取れます。

少し離れたところにビル群も見えるから
わりと都会にある学校なんでしょう。
そんな都会の中にあって
学生たちがなにやらイモ掘りという
見慣れない作業をする学校という空間は
ちょっとした異世界であり、
異世界であるからこそ
外界とはコンクリート塀で区切られているのだと。

そういう描写には、
高橋留美子氏が高校や大学キャンパスなどを
どのように捉えていたのかが
伺えるような気もします。

後光大輔の登場シーンは アジっているところから。
この登場の仕方は
『腹はらホール』の稔の登場シーンとカブります。

どっちも食糧問題ですしね。
初出の時期は同じ頃(1978年夏)らしいですが
だからなのかこの二つの作品は、
二つで一つのような感覚に陥ります。
後述しますが最後のオチを入れ替えても
なんとなく成立しちゃうような。

興味深いのは
『腹はらホール』にせよ『がんばり末世』にせよ
ヒロイン不在ということですなあ。

その前の『勝手なやつら』にしたって
茜はせいぜいマスコット的立場であり、
ヒロインといえるほどの大役ではなかった。

同人時代の作品を見ても
少年・青年の活躍が多く、
昔の高橋留美子作品は
今の高橋留美子作品のイメージとは
だいぶん違う気がします。

さて次のコマではこのイモ掘りが
“園芸部の合宿”であるとされています。

園芸部というからには
美しい観賞用の草花がメインではないのか、と
思うのですがどうなんでしょうね。

なんなら後光大輔たちを高校生→大学生にして
農学部”とか“農業大学”所属にしても
よかったわけです。イモ掘りさせるならね。

そうしなかったのはなぜか。

たぶんですけど、農業がダサいとされていた時代で、
後光大輔たちをダサく描くにあたって
農業従事者ではあまりに生々しくなってしまい、
狙っている乾いた笑いが
差別的な雰囲気を醸してしまうから、ではないかと。

そういえばその昔ありましたねぇ農業バッシング。

シティボーイズ”の対極としてでしたかねぇ。
スネークマンショーでは既に
「イモ」という言葉が使われていましたし、
俺ら東京さ行ぐだ』あたりがきっかけですかねぇ。

抜けないイモを、男性部員総がかりで引っ張る図。
コースケっぽい友人が
「なんとなくアホらしいな……」と言っているけど
この台詞は何か含みがあるのかな。

イモひとツルに数人がかりで必死になるのが
馬鹿らしいってことかな……。
“おおきなかぶ”の幼稚園児のような
稚拙な行為と感じたってことかな……。

ちょっとフックになっている台詞なので
気になります。
弥勒出現前の雰囲気を、
少し冷めたものにしておきたかったんでしょうか。

「しゃばの空気はうまい~っ!!」
留美ック 超 名台詞。
任侠ものが教養課程ではなくなった令和においては
二段構えのギャグとは理解してもらえないかも。

ギャグというより“ジョーク”といった方がいいかな。

最近の文化ではジョークが減って
ギャグが増えているのかもしれない。
ユーモアという意味では
変遷していってるだけなのかもしれませんが。

自己紹介をする弥勒菩薩
高橋留美子作品ではちょいちょいモブとして
登場してますわね。

弥勒菩薩の知識がないことを
友人に呆れられる後光大輔。
コースケ(仮)が重ねて訊いたり、
大輔の頬が紅潮したりしていることから
作品としては本気で“常識”と思っているらしい。

お恥ずかしながら僕はその知識がなかったですなぁ。
七福神ぐらいだともう少し身近で
なんとなく役どころも知ってたりしますが。

新聞社を呼びに行く酒屋さん。
前掛けをしていて配達に出るっつったら酒屋でしょ。

そして押し掛けた新聞記者たち。
今だったら見物人がスマホで撮って
SNSで拡散しちゃう。
Youtuberも突撃しちゃうよね。
物語の流れも変わってくると思うから
令和リメイクすると結構面白いかも。

ってかそれって『パリピ孔明』っぽいな。
パリピ孔明』見たことないけど。

アホな記者の発言に呆れるコースケ(仮)。
昨今のマスゴミにも通じる風刺だな。

コースケ(仮)がこの作品中で何度も嘆く通り、
『がんばり末世』は世の知能レベルの低下を
漫画として皮肉っているけれども、
そこから40~50年経って、
それが現実になっているのが面白い。

ま、笑い事ではないんですが、
『うる星』全盛期には
凡作だと思っていた『がんばり末世』が、
芸能界や宗教や迷惑系Youtuber等の
問題を抱える令和の世になって、
ちょっと面白い作品に昇華した感はあります。

対立する後光大輔と弥勒菩薩
この後光大輔の台詞おもろいなー。
ブログのサムネイルに使いたい。

怖いからやらないけどね。
恣意的な“切り抜き”そのものといわれたら
反論できないしなー。

塀をよじ登って登場したのは
テレビ番組のプロデューサー。
新聞記者たちには混じらず、
様子を見たうえで
後からねちっこく登場している。

いかにも私欲にまみれていそうで、
ただの装置としての登場人物ではない
魅力のあるキャラクターに描かれている。

さっきのアホの新聞記者もそうだけど、
こういう描写が
作品の質を高めているなぁって思います。


や、だいぶ長くなってしまったので
来週に続きますね! 〈つづく〉