今週も『忘れて眠れ』のレビューをやります。
これが第4回となりますね。前回はこちら。
『忘れて眠れ』自体は
最短だと72時間程度の話で、
1日目:伏と春花が出会い、そしてヤツが出現する
2日目:春花が伏にすげなくされる
3日目:ヤツと、前哨戦&本戦をやる。
4日目:夜明け
という、めっちゃスピード感のある話であります
(もしかしたら、上記の2日目と3日目の間に
何日か挟まっているかもしれませんが)。
それなのにレビューを3週間、4週間とやるって
どうなの?って感じですが
僕にとって『忘れて眠れ』を
考察しながら読んでいくのは多分これが最後ですし、
その時その時に、楽に書ける分だけ書いていく方が
気持ちも維持できそうだし、で
ぼちぼちとやっていこうと思っています。
図書室で犬使いの伝承を調べる春花。
犬塚に封じられた老婆と女(若苗)は生前、
犬を使って山賊のようなことをしていたらしい。
とはいえ若苗は、最後の決戦まで
麻奈志漏しかまともに操れなかったので、
山賊行為の実行犯というよりは
犬や老婆の世話や強奪品の始末などの
雑務をやらされていたのではあるまいか。
考え事をしながら雪道を歩く春花の前に、
例の妖犬が 成長した姿で現れた。
……なんでドーベルマン……。なんで洋犬……。
メイ(洋犬)から産まれた出てきたから!?
いや~ドーベルマンは無理があるのでは……。
ドーベルマンは先天的には垂れ耳らしくて
成犬の立ち耳は人為的なものらしいですが、
そこのところはよく再現してますよね。
誰が断耳したのかという問題はあるにせよ。
妖犬に襲われた春花を助けるべく、伏が現れた。
髪がなびいている。かっけぇ!
天童とカルナには残るよう言いつけて
妖犬をひとり追う伏。
だけどもしも決戦になったらどうすんのよ。
実際、犬に襲われて命を落とす事件はたまにあるし
人間一人ではちょっと勝ち目なくない?
伏が、能力を覚醒させているかどうか
問いかける妖犬(ばば)。
伏にはそれが何を指すのかわからない。
だが、ばば(の怨霊)が知っているのは
犬使いの男の、実在の犬を操る能力であり、
伏が(これから)体得する
(倶々囉や指倶囉などの)霊犬を操る霊能力の事は
知らないはずなのだ。
ばば がその能力を恐れているのは
時系列的に少しおかしいが、
仮説としては
犬塚建立後、主を失った倶々囉と指倶囉が
死ぬまで、そして死後も地縛霊として
ばば に睨みをきかせていた、
というのはどうだろう。
伏に霊能力があるのではなく、
倶々囉と指倶囉が伏に自分達を使わせていた、
というような。
妖犬が立ち去り、伏は春花が待つ場所に戻る。
(天童とカルナがいたとはいえ)
ひとり取り残された春花は怯えて泣いていた。
最近の著作ではどうか知らないが、
高橋留美子氏の作品では
春花のような、ただ無力な女の子の描写は
珍しい気がする(受動的ということでは
音無響子にやはり通じているようにも思うが)。
無力ながらも立ち向かおうとする
気概がある女性キャラクターが多い中で、
春花は泣きながら男を待っている。
読者男性が好きそうな、か弱い女の子を描いたのか。
それとも、高橋留美子氏が考える
“ヒーローが存在する状況での素の女の子”なのか。
なんとなくだけれども、
『ウルフガイ』シリーズに出演するのならば
こういう感じで出たい、とでもいうような
作者の願望、ある意味で理想像、とも
感じられるのだがどうだろうか。
伏は自分の顔の傷をあまり見られたくない。
春花に余計な心配をさせないためかというと
そういうわけでもない。
顔の傷がイコール、自分が普通ではないことの
証になっているから見られたくないのだろう。
しかし春花に見せろと言われると
自分から進んで見せにいっている。
この描写がつまり、伏にとって春花が、
秘密を共有してもいいと思える
特別な存在になったということなのだろう。
伏の顔の傷を見て涙ぐむ春花=若苗。
麻奈志漏が食らいついた喉笛には傷はないのかね。
まぁ…そこをリアルにやってしまうと
『シックス・センス』になっちゃうしね。
裏切った私を許してほしい、と懇願する若苗。
これなぁ。
「わしはおまえを…裏切っ(た)」という
自戒の台詞から、若苗の真摯な、
しかし切ない気持ちが伝わってきて
とてもいいシーンなんだけれどもね。
後ろのページで「私は裏切ったわけじゃない」と
告白しているわけで、それと併せて考えると
ここのこの台詞はちょっと不自然だなぁ。
まぁここで「裏切ってない」と主張してしまうと
言い訳じみて若苗の印象悪いし。
「結果的に裏切ったような形になってしまいまし
たが、私にはそのような意図はなく──」
みたいな
情状酌量目当ての陳述をするのもアレだし。
犬使いの男におぶわれた若苗の記憶。
若苗は怪我でもしているのか、と思いきや
男の口調からはただの好意のようで、
なんだスキンシップかよ、みたいな。
これは冗談ではなくて、
その逢瀬での“おんぶ”が
禁じられた恋人同士のささやかな触れ合いだった、
そう考えることで
昔の若者の朴訥さ、地方の山村の貧しさなどの
味わいが、作品に厚みを与えると思うのだ。
というわけで、
伏くんと春花ちゃんが
無事心を通わせたところで今週はおしまい。
次週、いよいよ決戦の時かな。
ま、決戦の最中にも回想シーンが入るので
寄り道が多くなりそうですが。
またよろしくお願いします。〈つづく〉