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(毎週土曜日中の更新を目指しています)









忘れて眠れ レビューその3


『忘れて眠れ』レビューも3回目となりました。
前回はこちら

春花と共に妖犬と対峙した伏はその後、
昔、自分が妙な体験をした“犬塚”を訪れてみたが
そこに霊気はなく、もぬけの殻のようになっていた。
何も掴めず帰宅した伏を、犬たちが迎える。

 

だが天童は寄ってこない。

「あぁ、春花さん……」

「あっ春花さん! 来てくれたんですね春花さん!」


伏に問いかける春花。
春花に問いかけられて、伏は幼少の頃に体験した
奇妙な出来事に想いを馳せる。

や、少年らしい半ズボンだ。正統派だなあ。

「人間はだめだ!人間は裏切る!」
この台詞も使い勝手が良くて、
僕的にはもう数十年来のネタ台詞となっている。
しかし実は青年の伏は劇中で、この台詞のような
人間への不信感を露わにはしていない。

春花に、この事件から手を引くように
「帰れ」という伏。

『忘れて眠れ』における伏は“訛って”いない。
この時代はまだ、主人公を訛らせることに
すごく抵抗があったのかもしれない。

それに加えてこの物語において伏が訛っていると…
例えばここの台詞が「かえれ」ではなく
「けえれ」だったなら
土着的以上に 排他的な性格に見えてしまいそうで、
伏の印象が下がってしまっていたことだろう。
『忘れて眠れ』はヒーローものなので
伏はカッコよくていい。
標準語でよかったのだろうと思う。


顔は違うんか~い!!

てか伏は犬使いの男の生まれ変わりなんだから、
顔つきもなんとなく似ててもいいんではないの?
そりゃ生みの親の顔とかけ離れてるのはおかしいし
現代っ子の顔つきになっててもいいと思うけど
“生まれ変わり”ってそういう自然の摂理を
全部すっ飛ばしちゃっててもいいんじゃないのかな。


『忘れて眠れ』において、
春花の夢は何度か描写されるが、
夢への“入り”はあまり明確ではない。

ワク線やコマ外の変化も少なく、
特にここの部分などは
春花の犬舎からの帰途と繋がって
混乱してしまいそうになる。

しかしもしかしたらそれは
それが単なる夢ではなく
若苗との謎のコネクトであることの
表現なのかもしれない。


実際、若苗は春花の身体を操れるので
春花に事情を理解してもらう必要はないのだ。

だからこの春花の夢の描写は
若苗が春花に意図的に見せたものではなく、
若苗が春花に取り憑いた際に
若苗の記憶がシンクロして共有された、
サイコホラー的な事象なのだということを
強調したのではないかと思う。



それにしてもこの頃の高橋留美子氏の短編は
ボリューム感があるな。
46ページというのはさほど長い方でもないけど
場面の移り変わりが多いからか
すごく長く感じる。

最近の一般的な漫画では
会話劇やそれに伴う表情の描写などに
ページが割かれているせいなのか
作中の場面移動がここまで頻繁じゃない気がするが、
それに慣れてしまって
『忘れて眠れ』のような造りを
長く感じてしまうのだろうか。

冗長とかそういうわけではないんだけど、
読むのにそれなりに体力が必要な気がします。


というわけで今回はここまで。
来週に続きます!〈つづく〉