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忘れて眠れ レビューその5


さて、『忘れて眠れ』レビューの5回目です。
前回はこちら

伏の顔の傷を見たことをきっかけに
春花に取り憑いた若苗がこの世に具現化するが、
PTSDかもしくはHP減少のため
そのまま気を失ってしまう。
若苗(春花)は伏におぶわれて犬舎に帰ってくる。

 


犬舎に入ろうとすると、犬たちが吠えたてる。

春花(若苗)は震えだすが、
前段で「ビクッ」としているので
犬たちの吠え声が引き金で怯えたのは歴然だ。

犬の吠え声によって、
忌まわしい出来事の記憶が引き出され、
それに対する自責の念、
またそのことで犬たちに責められているような
感覚に陥って怯えたとみるのが妥当だ。

なぜこんなことにこだわるのかというと
ここでのそれぞれの思惑が、
それぞれにズレているからである。

犬舎の犬たちは、
若苗の過去の行動を責めて吠えているのではない。
見知らぬ怨霊(が主導権をとっている身体)が
やってきたから吠えているに過ぎない
(またはただ単に伏が帰ってきたので吠えている)。

それを若苗は、
自分が責められているように感じているが
これは被害妄想だ。

そして伏はそんな震える春花(若苗)に対して
「寒くて震えているのか?」と考えた節がある。

辛そうな春花に対して
思いやりのある行動をとった、という描写だが
高橋留美子氏的には
ここにひとつのボケをぶっこんだのではないのか。

なぜというに
伏はこの時点で若苗の過去を知らないわけで、
彼女の震えと犬の吠え声との因果関係を
理解できないはずだからである。

一斗缶の焚火を前にした伏の作画も
馬鹿正直で純朴な感じに描かれており、
僕はこの部分、作者が仕込んだと思うのだが
どうだろうか。


さて犬舎で寝かされた春花はまた夢を見る。

その夢は回想となっており、
いろいろな過去の出来事が明らかになる。


まずは、麻奈志漏から見てみよう。

麻奈志漏は若苗に仕える犬だったが
ばば に操られて、背後から犬使いの男を襲った。

若苗はそんな麻奈志漏を止めようとしたが
麻奈志漏は若苗の命令は聞かなかった。

そして麻奈志漏は倶々囉から死の制裁を受ける。


麻奈志漏は後々霊魂として出現するのだが、

こいつ、甦る権利ある?
若苗も、これだけのことをしでかした麻奈志漏を
現代でもう一度徴用するのってどうなん?

まぁ犬として強い命令に従うという点では
優秀なのかもしれないけどさ。


んで次に倶々囉と指倶囉である。

犬使いの男から敵を倒せと命じられ、

男を襲った麻奈志漏を倒し
(この時男はたぶん既に絶命している)

次に若苗を襲撃した。

その時点で、主(あるじ)を失っていたとはいえ、

たった今 敵認定して襲ったばかりの
若苗の命令聞いてんじゃねーよ!

なんつーか、犬は犬だなというか。


この辺の持っていきかたって、
作者の犬観(そんな言葉あるのか)が
透けて見えるというかなんというか。

まぁしかし古くは八犬伝から始まって
ウルフガイシリーズまで、
一昔前の創作物において犬は
そうでないといけなかったのかもしれないしなぁ。


犬舎に妖犬がやってきた。
妖犬のひと睨みで操られてしまう天童とカルナ。
ちょろい、ちょろすぎる。

お前たち、“犬は裏切らない”って
伏に言ってもらってたんじゃないの?


絶体絶命のピンチに覚醒し、
倶々囉と指倶囉を召喚する伏。
このポージングって
ちょっとロボットアニメ入っててカッコいい!

妖犬に襲いかかる倶々囉と指倶囉。

だが物理攻撃ではないからなのか
妖犬にはあまりダメージを与えられてないっぽい。

まぁ妖犬に体当たりすることで
ばば の犬使いの術を無効化しているので
ちゃんと仕事はしているわけですけど。

完全に前世の記憶を取り戻した伏。
春花が二つの人格を持っていたのに対して
伏は“犬使いの男の生まれ変わり”なので
人格も一つである。

言ってみれば“死に戻り”同様であり、
『人魚シリーズ』の湧太ではないが
死んだ時の苦しさの記憶もあるだろうし、
なかなかハードな高校生ですなぁ。

麻奈志漏を召喚し、伏に加勢する若苗。
瞑目しているのは、身体は睡眠(催眠)状態だから?
でもさっきは目を開けてたし。



死闘の末、討ち取られる妖犬。
鳴り物入りで生まれ出てきたくせに、けっこう弱い。
周囲の犬を操って数で勝つ作戦だったとしても、
それを倶々囉と指倶囉に封じられてしまうのなら
ばば が犬使いの男に勝てる見込みは
金輪際ないじゃないですか。

戦いが終わって、
伏(男)に別れを告げようとする若苗。
同じ時を生きたかったという台詞は
伏があくまでも伏であり、犬使いの男ではない以上、
“若苗”と“男”として“生きていく”ことを
指していない。

同時に存在すれば、一緒に眠る(永眠)ことも
可能だったのにということを言っているのだろう。

それを聞いて、若苗を気遣う春花。
でもこういうのって、あんまり譲歩すると
「わ、私の身体で、へっ変なことしないでよ!」
的な、楽しいことになっちゃうんじゃないの?

そんなアホなことにはならず、

犬使いの男(の生まれ変わり)のそばで
穏やかな永遠の眠りにつく若苗。

でもそれってさ、
伏の中に若苗が入ればいいんじゃない?



春花は自分の中に若苗の存在を許したが、
それは伏(犬使いの男)と
共に生きていくことを
若苗に約束したことでもある。

つまりこの時、
春花は伏と夫婦になる決心をしたのだ。
……いや女子高校生だから
そこまで考えてないかもしれんが……。

そして春花に好意を示す伏。
しかし伏が犬使いの男の記憶を持っているならば
春花が好きなのか、春花の中の若苗が好きなのか
ややこしいことになってしまうな。



朝日が昇り、二人で山を下りるラストシーン。
まばゆさが見えるような見事な作画である。

伏はもう人里から離れて暮らす必要はない。
人の温もりを再認識して、山を下りていく。
良牙のような方向音痴じゃなければいいけどな。


というわけで、これにて『忘れて眠れ』の
レビューは終わりとなります。
長らくのお付き合いをありがとうございました!

〈おしまい〉