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忘れて眠れ レビューその1


今週からは『忘れて眠れ』のレビューをやります。


『うる星』『めぞん』人気絶頂期の作品ですし
「るーみっく わーるど」1巻にも再録されたので
認知度はかなり高いんじゃないかなと思いますが
人の口の端にのぼることは少ないような。

『闇をかけるまなざし』がサイコホラー、
『笑う標的』がクリーチャーもの、
『炎トリッパー』がSF時代劇ときて
『忘れて眠れ』は
地域の伝承・民話を模したような古いイメージが、
地味すぎたんでしょうかね。

読者(ティーン男性)が
身近な自分事のように感じるには
雪深い“N県K市”というのは
ちょっと遠い場所に感じるし、
その雪山で起こった事件は
自分にも襲いかかるかもといった広がりはなく
伏くんと春花ちゃんの二人だけの問題であって、
最終的にもその二人だけで解決しちゃってるし
なんかこじんまりとした話だなぁ、と。


まぁ“時空を超えたスケール感”といえば
いえないこともないんですけれど、
“記憶の伝承”という設定が
珍しいことではなくなった令和の世で読み直すと
たいしたこっちゃないな、とも思ってしまいます。

そのへんはもしかしたら
道を切り開いてきた者のさだめなのかも
しれませんが ↓

togetter.com


『忘れて眠れ』が
高橋留美子氏の他の作品と一線を画しているのは
主役である伏良平が、
シリアス一辺倒だということです。

笑わないどころか、
ヒロインにからかわれての
「なんだよー!」とか
「ばっ馬鹿っ、お、俺はなー!」みたいな
可愛い一面なんていうのもない。
かなりのハードボイルドキャラ。

平井和正氏の著作のキャラクターにも
イメージが重なる気もします。
犬繋がりもあるしね。

(この頃の)高橋留美子氏にとって
かっこいい男性キャラというのは
この伏良平のような感じなのかもしれませんね。

もっとも伏くんは高校生らしくストレートヘアで、
そこは作者のお好みからは外れていそう。
ただ春花ちゃんをくせっ毛にしたので
二人ともくせっ毛にするわけにもいかず…
というところでしょうか。

『らんま』の良牙くんも同じ系統で、
もっともそっちはギャグ漫画ですから
ちょっと三枚目に振った感じもしますけれど、
基本的にはこういう顔の、不器用・不愛想な男が
高橋留美子氏はお好きなのかもしれません。


なんか前置きが長くなってしまいましたが
レビューを始めましょう。


まずはタイトルページ。

ちょっとアナクロい感じの題字の下に
たくさんの犬を引き連れた春花が
虚ろな目で伏を見つめている。

思えばこの春花の眼差しは
その身体に潜む若苗の意識体であり、
この伏にしても
中身は“犬使いの男”なのかもしれない。

そのせいか、この絵から受ける印象は
本編中の愛嬌のある春花や
人ぎらいな伏とはかなりイメージが違う。

こういうミスリードや深読みを誘うような
扉絵の趣向は、氏の作品ではたまに見る気がするな。


ページをめくるとN県K市。
相当雪深い山の中を春花が駆けてくる。

この地に“犬使いの伝承”があることを
キャプションで伝えているが
なぜここでそのことに触れているのだろう。
伏を暗に“伝承者”だと伝えているのだろうか。


メイに問いかける伏。
メイの反応を見るに、
完全に会話が成り立っているようだ。さすがである。


「あ、あたし神代春花!」
いいえあなたは響子さんです。

……いや真面目な話、髪型しか違わんよね。
例えば響子さんとサクラさんは
性格の違いが表情の違いとして表れているけれども、
春花と響子さんは
別人にする気がまったくなさそうなのだ。

この感じとか見るに
春花は、ほぼ響子さんと同じタイプの
キャラクターなのかもな。
例えば、作者の考える理想の投影とか。


『めぞん』の春香ちゃんだって本当は、
春“花”ちゃんにしたかったんじゃないのかねぇ。
『めぞん』には桜がつきもので、
桜の香りというよりもやはり花びらの描写が
たびたび印象に残っているように思うし。

でも“神代春花”とカブるから
春“香”にしたんじゃないかなぁ、
というのは僕の妄想だけど。


愛犬を呼ぶ伏。
カルナといい天童といい、
どういうネーミングセンスなんだ。

犬塚に近づいてしまって、
メイには ばば が、
春花には若苗が取り憑いた。

犬塚には、ばば と若苗が封じ込められていたのだ
(全然封じられてないじゃん)。


だが、
ばば は死んだ時点で若苗が裏切ったことを
認識している。


若苗のことを、殺しても殺し足りないぐらいに
思っている。


そんな ばば と、ずいぶん長い間
同じ塚に一緒にいさせられた若苗は
さぞかし居心地が悪かったことだろう。


春花が担ぎ込まれたのは
伏の飼育小屋だった。
今でいうところの多頭飼育である。

費用の捻出が、高校生の伏に
可能なのかどうかを考えると
動物虐待の可能性もあるな。
ま、親御さんの援助があったのかもしれないし。

寄生した化物が今まさに出現せんとし、
苦しむメイ。
犬塚で倒れてからたったの数時間である。
早い、早過ぎる。
媒介としてのメイが必要だったのかレベルで早い。

だいたい、メイの前にも
他の犬が犬塚に来ているのである。

なんでメイだったのか。よくわからん。


血がのぼってくると顔に傷跡が浮かんでくる伏。
それはいったいどういう仕組みでそうなるのか?
伏と犬使いの男との関係は何なのか。

まず、犬使いの男は
顔に傷を受けてからすぐに死んだので、
顔の傷以降の子孫はいない。
だから伏と男に血縁関係はない。

伏は子供のとき犬塚で倒れ、
ばば の怨念の言葉を聞いたが

そもそも犬塚には犬使いの男は祀られていないので、
その犬塚において
伏くんと男はコンタクトをとったり
同化したりはしていない。

じゃあ伏は何なんだ? というと

犬使いの男の生まれ変わり、ということらしい。

ええっ、生まれ変わりですか!?
生まれ変わりって、現代劇においてアリなんですか。
縁もゆかりもなく?
死亡時刻と出生時刻が同時とかでもなく?

そして元の“犬使いの男”が普通人であったのに、
伏は超能力者になっている。
過去の記憶もバッチリあるしね。

この辺の、ロマンチックファンタジーっぷりが
なんだか平井和正っぽいなーっと思うのだが
いかがだろうか。


というわけで、今週はこの辺りで。
また来週に続きます!〈つづく〉