ぼちぼちと更新していければ

(毎週土曜日中の更新を目指しています)









『人魚の森』レビューその3


人魚の森』のレビューをやっておりまして
今回が第3回目です。前回はこちら

先週は、神無木家に忍び込んだ湧太が
登和の放った なりそこない犬に襲いかかられて
命を落としたところまで取り上げました。

なんか数日前に
群馬県伊勢崎市で逃げ出した犬が
児童12人を噛む事件があったばかりで、
ここのブログもデスノートじみてきたなー、と
感慨深くなっているところです。


襲われた湧太は一旦死んじゃいまして
まぁどうせ生き返るだろうとは思うのですが
こういう蘇生って、
次もちゃんと生き返れるかどうか
何の保証もないんですよね。

“死に戻りファンタジー”が流行ったから
その辺りを深掘りした作品も
探せばあるんじゃないかと思うんですけどね。


湧太の遺体を見て嘆く佐和。
どちらかというと
登和の残虐な行為に対して嘆いているっぽくて
湧太を哀れんでいるわけではなさそう。

まぁそりゃそうで、
この時点で佐和と湧太は面識もありませんから
“朝、庭で賊が死んでた”ぐらいの話ではあります。

埋めてやろう、などと殊勝なことを言っとりますが
(登和をかばって)通報もせず死体遺棄というのは
あきらかに犯罪であります。
また 今までに何体もの遺体を
そうしてきたのであろうなぁ、と考えると
手際よくルーティンをこなしただけともいえますな。

椎名医師は登和の許婚であり
彼女の生きざまに寄り添ってきた結果、
良心もなかば虚ろになって
こういうことをさらっとできるように
なってしまった、というのは
人魚の森』が描く人間の業、
というものの一つなんではないかなぁと思いますね。

婆ぁ無理すんな。

佐和が穴を掘る作画は特段重要ではないのに
なぜ描かれたかというと
登和が手伝わずにいることを
強調するためだと思います。

この時点で佐和は
ややいけすかない悪役じみた人物であり、
登和との主従関係はまだ明かされていません。

ここで登和が手伝わないのは
登和がボンクラだからだと読者に思わせておいて
実は登和が“主”だからなんですけどね、という
さりげない伏線の意図があるのではないでしょうか。


蘇生した湧太は座敷牢で目を覚ます。

(いやー、一昨日放送されたばかりなんでつい)

人魚の肉を食べたな、と聞かれて押し黙る湧太。
警戒しているさまがアリアリと出ているが
湧太は別に、誰かに狙われるような立場ではない。

お宝=人魚の肉を隠し持っているわけでもなく
そのありかを知っているわけでもない。

不老長寿を知られたら
実験台にされて解剖されるかといえば、
そんなことにはならないだろう
(過去には見世物にされるようなことも
あったかもしれないが)。

なによりきっと重荷なのは
湧太が“この世にいてはいけない人間”だと
いうことだろう。
だからこそ他者と深く関わることを避け、
一人ぼっちで生きてきたのだ。

そんな彼が出会った真魚
たった一つの彼の拠りどころである。
失うわけにはいかないのだ。
そりゃ用心深くもなるだろうね。

激昂する佐和をたしなめる登和。
この入れ歯の台詞は何かにかかっているのかな?
佐和の絵に歯が描かれていないから
何かしら意味があるのだろうかと
考えてしまうのだけど。

湧太は「呑気に飯なんか食ってられっか!」と
言ったけれども、呑気に飯を食う真魚
そういうコミカルなシーンではあるが
生き返った真魚の生命力を感じられて
どちらかというと ほっとするコマだ。

ここで食事を摂らない登和が
何かしら意味ありげである。

なりそこないが何を食べて生きているのかは
『笑わない』や『闘魚』では
特に語られることはなかったが
この後の『夢の終わり』にて
人肉を食っている設定が出現する。

その設定のハシリが
ここに現れているのかもしれないな。

「私、体が弱っているの。」からの
「人魚の肉がほしい…」という
登和の台詞のトリックが見事である。
己の身体を永らえるための人魚の肉ではなく、
もう時間がないから(早く)人魚の肉が欲しいのだ。
この、読者を騙すテクニックが素晴らしい。

ページをめくった最初のコマでは
登和が「それまで死にたくない…」と言う。
この黒塗りの登和が、心の奥底に
どす黒い思惑を秘めている描写となっている。
この黒塗りは、伏線なのだ。


一方、湧太は繋がれた鎖を断ち切らんと
渾身の力を振り絞る。
相当な超人じゃないと無理なんじゃない?



そしてこう。
これはもしかして『うる星』読者への
サービスなのか? とまで思ってしまう
(一昨日放送されたばかりなんでつい)。


そこへ佐和が現れて、手にした斧を振りかざす!

というところで、また来週に続きます!
次回もよろしくお願いします。

〈つづく〉
(続きの第4回はこちら