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(毎週土曜日中の更新を目指しています)









『人魚の森』レビューその4


今週も引き続き『人魚の森』のレビューをやります。
第4回目ですね。第3回はこちら

先週は、座敷牢で鎖に繋がれた湧太に
佐和が斧を振りかざして迫るところまでやりました。

 

場面は朝ご飯を食べた後に朝風呂に浸かる真魚から。
朝食の時にしっかり身支度をしているので

その時点で普通は身を清めてるだろ、と思いますが
登和による 真魚の身体の“検分”という
意味合いなので、
苦しいながらもこのタイミングとなります。

真魚の身体に見入る登和。
それはこの先で、真魚の身体をまるごと
自分の身体と入れ替えようとしているからですが

いうて登和ちゃんの身体は
まだ娘さん時代のままなんですよね。

健康な頃はそれなりに溌溂とした様子でしたが

大病で肌の具合いも肉付きも
病人のそれとなってしまったのでしょうか。

その“大病”が、人魚の生き血を飲んだことによって
治ったのかどうかは物語中で語られていませんが
登和は以後60年も長生きしていますから
生き血の効能はあったとみていいでしょう。

後々湧太に

人魚の血肉を食ったって いい事ないぞ、などと
言われていますが、
とりあえず大病による死からは逃れられている。

右手は化物の手になってしまったし
もしかしたら、変身する時の苦しみの一部が
未だに残っているのかもしれませんが
死ぬまでに残された時間を
手に入れたことは確かです。

せっかく時間を手に入れたのに、
彼女は幸せではなかった。

まぁ問題は、登和には“生きてしたい何か”が
無かったということなんでしょうなぁ。
椎名医師との関係もそれには該当せず。
だから復讐だけが生き続ける目的になってしまった。

つまらない凡人が怪物になったという意味では
非常に“高橋留美子劇場”っぽい話ですね。


実は僕は昔から、漫画でよくあるこの
上手(かみて)から下手(しもて)に
引っぱたいているのに
叩かれた方は下手から上手にのけぞっている、
という表現が苦手でして。

つい先日、『フリーレン』の話題だったかで
川面に写る自分の顔を眺める、という表現が
物理的におかしい、なんて話になっていましたが。

んで引っぱたかれた登和が

「気にいったわ。」と言うのですが
これが上手いですねぇ!
真魚の強気なところを気にいったと
言ったかのようでいて、
実はその前段の「きれいな体…」にかかっている。

まだこの段階では、
登和が真魚の全身を利用しようとしているとは
明かされていないので、
これは上手いトリックといえましょう。

真魚に襲いかかる登和の右手は
醜く変化した化物のようであった。
これは……

鬼の手!?

真魚は反撃を試みるも、まるで歯が立たない。
この引っかき攻撃の描写ですが
登和の顔に傷をつける→登和の傷もすぐ治る、

という何らかの含みがあるのでしょうか。

登和の治癒能力が高いことがわかるのは
もう少し先の、腕が簡単にひっつくのだと
告白するあたりですから、
この頬の傷も、設定のチラ見せなのかもしれません。


一方、座敷牢では湧太と佐和が話をしていた。
佐和は湧太を襲ったのではなく、
逃がそうとしていたのだ。

佐和は「登和はロリ婆ぁ。そのうち死ぬ」というが
えっじゃあ登和は80とか90で寿命で死ぬの?
そんなことなくない?

佐和の語る回想シーンには
登和・佐和の母親らしき女性が登場する。
当たり前だが母親はいたのだ。
そして母親は登和を気にかけているようである。
この母親、これ以降登場しないんだよねぇ。

佐和は、自称 姉を想う気持ちから
登和に人魚の生き血を飲ませたのだった。

人魚の血の効果で登和の身体に変化が起こる。
その急激な変化は登和に恐ろしい苦しみを
もたらした。

ホワイト・ヘアード・デビルの誕生である(嘘)。


その後 幽閉された登和は
父親の死後、外に出られるようになる。
湧太と真魚が訪れた、今のようにだ。

登和を縛り付けていたのは
父親の世間体だった。しかし登和は
父親には、恨みを持っていないように見える。
自分が化け物だという自覚もあったのだろうが
父親がイコール、絶対的な掟 のような感覚が
骨の髄まで叩き込まれているのだろう。

そこに踏み込まない作者の高橋留美子氏自身にも
同じような父親観があるのかもしれない。

佐和が身の上話を湧太に聞かせていると

真魚を引きずった登和が座敷牢に現れた。
湧太と真魚は久しぶりの再会である。

登和は、今まで行ってきた腕の付け替えのことを
湧太に話す。合わせるだけで簡単につくのだ、と。

マジかよ血管とか神経とかどうなってんだよ。

それで、付け替えた腕が何年か経つと
化物の腕になってしまうんでしょ?
でもさぁ、移植した腕には本来
人魚エキスは入っていないわけだから、
それが変化するってことは
登和の身体の方からエキスが流れ込んでくる、
ってことだよね。
高濃度の人魚エキスを抱え込んでいるのに
人間の姿を保っている登和の身体って、
人魚耐性が相当強いんじゃない?

自分と真魚の身体をまるごとすげかえるのだ、
という登和。その理由を

不老不死の身体が手に入ったからだというが、
これが『人魚の森』においては
ちょっと複雑でわかりにくい。

佐和への脅しであることは置いておくとして、

登和は既に不老不死なんである。
だからそのために全身を入れ替える必要はない。

腕が痛いのが嫌だし
定期的に付け替えるのが面倒なのであれば
真魚の“右腕だけ”を付け替えればいいのだ。

病み上がりの貧相な身体を
真魚の健康体と取り替えたいのかもしれないが
だったら不老不死関係なくそう言えよと。

ちょっとこの辺り、トリックを保たせるために
作劇で無理してるよなと思います。


話を聞いて憤る湧太を槍で一突きし、
登和は佐和を自らの元へ誘う。

残された湧太は、登和が連れてきた
因縁のなりそこない犬と 再びバトルである。

なりそこない犬と格闘しつつも
連れ去られてゆく真魚の名を呼ぶ湧太。
真魚への悲壮な思いが伝わってくるようであるが、
そんなに気を散らしてちゃ
犬に勝てなくないか?(勝つけど)


というわけでここで前編が終了であります。
いやあ、なかなかのボリュームですな。
でも湧太と真魚がこの地に来てから
まだ二日目なんだよね。

もうしばらくお付き合いください。
ではまた。〈つづく〉
(続きの第5回はこちら