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橋本 治氏の「高橋留美子・天才の秘密」を読んで


前回ちょっと触れた、
橋本 治氏の「デビッド100コラム」。
なんとか入手してきました。



浅学で氏のことは存じ上げなかったのですが
マンガに造詣が深い方だったんですね。
4年前にお亡くなりになっていますが。

1948年生まれということですから
当時をもってしてもなかなかのお歳です。
ヤマト世代よりも上でしょう。
とはいえ1938年生まれの平井和正氏よりは
十ばかりお若いということになりますね。



さて「デビッド100コラム」中では
4ページとちょっとに渡って
高橋留美子作品について書かれているが
やべえ、この人ガチ勢だ…。

平井和正氏以外に「うる星」ファンを
公言する著名人は西村知美氏ぐらいしか
知らなかったが…。

「うる星」のエピソードを
事象と事象を紐付けて語っているが
これは原稿執筆依頼を受けて
マンガを通りいっぺん読んでできることではない。


不条理は、日常の中で成長してしまうのである。

これはつまりバトルものにおける
敵のインフレと同義である。

厄介な話ではあるのだが、
そこはそれギャグ漫画の場合はどうとでも、
というのが後期「うる星」だ。

ただそれが「シラケ」ギャグの乱立を招き
それが肌に合わない僕にとっては
苦痛だったこともあった。

この“飛鳥ふたたび”の出だしの文句は、
三週続いて、それから十二週おいて、
“嵐を呼ぶデート”が五週続いたその最後で
一応の完結を見るが

おいおいおいおい。
「飛鳥ふたたび」や
「嵐を呼ぶデート」という
個別エピソード名を挙げてくるだなんて、
どれだけニッチな世界に向けて書いてるんだよ…。

実際、
令和アニメ「うる星」のスレなど見ていると
ファンを自認する人でも
意外に単行本を持っていないのである。
こんなこと書かれても、
理解できる層がどれだけいるというのか。

まぁそりゃそうと。


(23-3)


(24-11)

この二つのエピソードを
(間隔をおいたにせよ)一つとして見る、
というのは考え付かなかったが
果たして本当に「飛鳥ふたたび」が
「嵐を呼ぶデート」でオチているかといえば
そうでもない。

その二つはそれぞれ
“男嫌いの飛鳥のドタバタ話~竜之介編~”と
“男嫌いの飛鳥のドタバタ話~面堂編~” 、という
ある意味焼き直しのエピソード二つであり
最終的には何も進展はしていなくて
進展がないことがオチという体裁をとっている。

飛鳥が全く成長しないので状況は改善せず、
事態は一向に進展しないわけだが、
だから
いつまでも同じことをやってる感がものすごい。

しかも登場人物が先にシラケているもんだから、
先にシラケたもん勝ちになっていて、
読者は置いてけぼりである。

まぁしかしこれらのエピソードの
この雰囲気を好む層もいるのだろうから
世間は広い。

それぞれの人間は、
それぞれにどこかが抜けているのである。

キャラクター達の魅力が、
そういう隙のようなものに支えられている、
というのは同意だが、それは人間の場合に
“人間的魅力”となるのであって、
実はもはや人間ではない飛鳥が、
いつまでも物分かりが悪いことを許されていること、
また飛鳥を取り巻く登場人物たちが、
その“飛鳥の物分かりの悪さ”で飯を食っていること、
それがどうにも腑に落ちない。

ナンセンスギャグを謳っておきながら
実際にはシャンシャン総会となってしまっている。
これはイマイチなことだと思うのだ。

出来上がってしまったということから逆算して
「なるほど、ラムにはパーソナリティー
なかったのか……、彼女は
うる星やつら』の中で、唯一人、
一般的人格だったんだな」
というようなことが分かってしまったのである。

パーソナリティーがなかった、
ということもないけれど。

ラムの場合はそのモチーフが
昔ばなしで馴染みのある鬼であることもあって、
先入観というか前提というか、
日本人が思い描く“鬼”の性分は、
確かに彼女の中にあっただろう。

ただしそれは初期の話で、

このラム(2-8)と

このラム(26-6)は
パーソナリティーからして別人だ。
中期、後期と、ラムが無臭化していったのは
僕にとっては歯痒い事実である。

めぞん一刻』が完結した時、
それは夏目漱石を軽く超えているだろうという
ことだけは予感できるのである。

「めぞん」は終わったが、漱石を越えただろうか。
僕はこの歳になって
むしろ漱石が大衆娯楽小説であるなぁ、と
いうところを強く感じており、
漱石が下がる感じで、「めぞん」が同等かも、
というふうに思うことはできるかもしれない。


最後に。
ラムはたぶん、幸福になっただろう。
橋本氏もおそらくそれを見届けただろう。
あの世でたまに「うる星」を思い出して
エヘラエヘラなさっているといいですなぁ。
〈おしまい〉


「デビッド100コラム」は廃版のようだが、たぶん
「熱血シュークリーム 橋本治少年マンガ読本」に
件の文章が再録されている。

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