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「ザ・超女」レビューその1


いよいよ「ザ・超女」のレビューをやります。
名作中の名作なので緊張しますなぁ。

主役はマリス。
見た目がランちゃんに似ていることから
いろいろコンバートのネタにされてたけれど
歳をとってから見ると
外見にもそのキャラの本質が滲み出てきており、
ランちゃんとは似ても似つかないな、と
しみじみ感じています。

タナトス人の血なのか、
まぁ本当に明るい子だなぁと。
アッパラパーなところもあるけれど、
そこも宇宙を股にかけていれば、
少々のことは気にしない性格になるのかな、
というふうに納得させられる何かがあります。

凶暴だとか、無頼派だとか、
マリスのそういう性質についても
宇宙海賊なんかに通ずる説得力がある。

松本零士氏の漫画などによって
宇宙を飛び回るキャラクターが
“船乗り”気質に描かれてきた、
その教育の賜物かもしれません。

あるいは、まだ見果てぬ宇宙の先にある
タナトスをはじめとする他の星が、
科学は発達していても
どこか野蛮な地なのではないかという
未知の世界の冒険活劇のような面白味が
マリスのキャラとして描かれている気もします。

タナトス人が読者より高次元な生命体だと
あんまり面白くないんじゃないか、
マリスをどこか下に見ているから
面白いのではないかと思うのです。

これは戦前の子供たちが
冒険ダン吉」あたりにワクワクした気持ちと
同じなんじゃないかなぁ。

いまの“異世界チート転生”ものも、
根っこは同じなのではないでしょうか。


さて、やっとこさ扉絵です。

「ザ・超女」は、こと着想についていえば
スター・ウォーズ」インスパイアであることは
ほぼ間違いないところかと思いますが
この扉絵でいうと
床の細かいモールド感なんかも
デス・スター”トリビュートなのかなぁ、と。

美女がビキニ(やビキニアーマー)を
着ていることについては、1980 年前後の
SF がスペースオペラ化していく過程で
目に付くようになっていったような。

ちなみに「ザ・超女」は「ジェダイの復讐」よりも
先に発表されているので、
レイアのビキニとは関係がなさそうです。

スター・ウォーズ」インスパイアであることを
如実に表しているのがこの二つの太陽。

wikipedia によると“大磯ロングビーチ”は
地名ではなくて商業施設とのことで驚きました。
当時、そのキャンペーンガール
アグネス・ラムがやっていたとのことなので
そういう繋がりもあっての設定かもしれませんね。

このコマのような、
多種多様な宇宙人が
一堂に集まっている描写は
これもやはり「スター・ウォーズ」の
宇宙人たちが集う酒場あたりが起源でしょう。


話はズレますが、
うる星やつら」や「ザ・超女」のような
初期の高橋留美子作品における
そういった“エイリアン”や SF メカの描写について
最近わからなくなってしまったことがありまして。

山本貴嗣氏が高橋留美子氏のアシスタントを
やっていたことがあるのは有名な話ですが、
高橋留美子作品での SF・メカ描写は
いったい誰のセンスなのか、
そしてその作画はどこまで高橋留美子氏の
指示があったのか、ということについてです。

山本貴嗣氏の Tweet
なんとなくおぼろげに見えてくるのですが
結構アレな感じだったんだろうな…と
最近は考えています。
おそらく、SNS なんかで直接尋ねたところで
答えてもらえる類の話じゃないと思いますけれど。

変人・変態なキャラについても
両氏で高め合った部分もあるのではないかなあ。


ロングから寄ったこのコマが
素晴らしい立体感でものすごくいいです。
このままヴィネットとして成立するんじゃないか、
そう思えるような構成です。

ついでに怪力も説明しているという
見事なコマですが、
マリスのような、怪力の美少女は
当時珍しかったのではないかなあ。
豪ちゃんの漫画なんかの敵役には
ちょいちょい怪力の女性キャラが出てきましたが
たいがいムキムキマッチョなゴリラ女でしたし。

スリムな美少女キャラが敵を投げ飛ばすシーンは
かつて見たような記憶はありますけれども、
柔道の国・ニッポンにおいては
柔よく剛をよろしく、
力ではなく技で投げている解釈だったのでは
ないかと思います。

そこにいくとマリスの怪力は
かなりストレートなキャラクター付けです。

マリスはこの導入部だけ、
可愛らしい衣装を着ています。
海のトリトン」のような、
古代ギリシャの民族衣装のような。

レースアップのサンダルも可愛いですが、
このレースアップって、どういう経緯で
古代文明とかのイメージに使われるように
なったんでしょうね。

トランクの上に乗っかっているのは
いにしえのイエローモンキー、
ニッポンジンの“農協”ですな。
ですが日本ももうずいぶん衰退してしまって
こういう揶揄も成立しなくなってしまいました。

相棒のマーフィーは九尾の狐。
白面ちゃんも九つの尻尾ですけど
だいぶん迫力が違います。


他作品の魔法少女ものなんかでは
動物っぽいマスコットキャラだったり
可愛い使い魔だったりが出てきたりしますが、
マーフィーはマリスが
「パートナー」といっているように、
“相棒”といった雰囲気です。

世界でもっとも有名な“相棒”といっていい
スター・ウォーズ」のチューバッカの立ち位置は、
かつてのロードムービーである
「ダーティファイター」のオランウータンや
「トラック野郎」の愛川欽也あたりと同じで、
ペットではなく、
心を許せる対等の関係である気がします。

これは“バディ”とはちょっと違う気が。
なんでしょうね、“相棒”の場合は
片方がたとえ“無能”でも
心の支えになっていればいいような気がします。
まぁチューイはめちゃくちゃ有能ですけど。


とまあ、
魅力を引っさげて登場したマリスさんですが


(この切り抜き方はヤバいな…)
「本職の方で」と別の生活を示唆することによって
このポーター姿は仮の姿であることを匂わせていて
またまたそそります。
いってみれば変身前、変身後という感じですが
日常はいったいどっちなのか。

マリスにとってみれば
本職のスペース・パトロール「日常」であり、
この(地に足が付いた)リゾート地での
アルバイトが「非日常」なんだけれども、
そのアベコベさ加減が
読者にとっては不思議な感じで
引き込まれてしまうように思います。

啖呵を切るマリスのそばで
常識人ぶるマーフィー。
これが「新感覚ギャグ」だったんだろうな、と
思います。

マリスが樹木を「ドカ!」と殴るだけでも
実はギャグとしては成立する。
その暴力に対して「ギャー」とか「ワー」とか、
「暴力だー!」と叫ぶのではなく
一歩離れた立ち位置から冷静なツッコミを入れる。

それは“シラケ時代”や
初期の不条理ギャグマンガを経たからこそ
産まれた笑いだったんだろうな、と思います。


うわー、なんかまだ 2 ページ分しか
進んでいないんですけど、
長くなったので来週に続きます。〈つづく〉