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人魚シリーズ『夢の終わり』レビューその1


さて今週は、人魚シリーズから
『夢の終わり』を取り上げようと思います。

もう30年も経っていて
ネタバレもへったくれもないので話していきますが
なりそこないそこない、である大眼(おおまなこ)
の話でありますね。


最後には人間の尊厳を取り戻して死んでいく、
というお約束的な展開なのですが
この話では大眼は
あまり自戒的ではないっぽいんですよね。
「こんなおで(俺)なんて……」などと
自己否定してはいないように思えます。

メジャーなネットミーム
「シテ…コロシテ……」ってのがありますが
そういう感じじゃないんですよね。

そうなっても、どうしようもなく生きてしまう人間、
みたいなところを描いていたのかな、と
そんなところに注目しながら
見ていきたいと思います。


物語は山間の風景から始まります。
いやしかしすごい絵だな。
御大が描いたかどうかはわからないけど
遠近感がハンパない。

強めのコントラストで描かれた
一番手前の立ち枯れの木が、
ほどよく簡素化された次の山の稜線をバックに
すごく浮き出ていて、
彩色もあってのことだろうけどこりゃすごいわ。

一番奥の山影のトーンも
そのほどよい遠さを伝えていて
この場所が人里と隔てられた場所だということを
否応なくわからせに来ている。すげー。

道も付いていない森の中をかき分けて
大眼が歩いている。
この大眼のコマは原画で見てみたいなあ。
主線が薄墨で、霧の白いブラシもかかってるよね。


で、タイトルバックがこれ。
湧太と真魚(主役の二人)が死んでる。すげえ。
数多の“死に戻り”のラノベだって、
普通は 死ぬ間際のシーンとか
目覚めのシーンから始めるでしょ。

それにしても耽美なシーンであります。
死体という静の存在と
それを取り巻く植物の緑の対比が
生の営みというかなんというか、
まぁちょっと退廃的な世界ではあるんですが。

絵画「オフィーリア」や、
それを元にした樹木希林氏の広告写真なんかも
おなじような世界観なんじゃないかなあ。

左上の立木が折れているので
その上の崖が崩れて滑落死したのでしょうか。
うーん、こんなリスクを追ってまで
湧太たちが人の目を逃れなくてはならない理由が
今ひとつわからないんですよね。
確かに戸籍はないだろうし
身体検査とかされたらヤバいかもしれないけど
基本的にこいつら健康優良児だし
なんだかんだ死んでるトコ何度も見つかってるし、
逃避行の雰囲気出してるだけなんじゃないの、って。

湧太よりも先に回復傾向を示す真魚
真っ赤な服を着ている効果で
血痕がマイルドになっているのは、
さすがにヒロインだから凄惨になり過ぎないように
気を使ってもらったのかな。

ほどなく湧太も目覚める……が
コマ運びが結構性急だな……。
カラーページということもあって
コマ外の細工も難しかったのかな。
『夢の終わり』は1話完結で30ページしかないから
いろいろと余裕がなかったのかもしれないけど。

出会ったばかりの猟師のじいさんに
最大の秘密をあっさり話してしまう湧太。
蘇生を見られているのでもう隠しようがないし、
このじいさんとの間に競争は起こらない、と
踏んでのことだろう。
それにはここが山里だということも
深く関係しているように感じる。
海から離れることで、
“人魚の肉”という概念が
どこか遠い話のように思えるからだ。

海から離れたのは
物語の変化を狙ってのことだと思うが
結構冒険というか、ちょっと無理があるよね、と。
大眼が昔 海沿いに暮らしてたってのが
いかにもこじつけっぽいし、
大眼が喰っていたとされる人骨にしたって
おめえそんなにたくさん、
どこで仕留めてきたんだよ、って感じだし。

湧太の秘密を素直に聞き入れるじいさん。
キャラの設定としては
悟りを開いた年長者っていうタイプではなく
猟師という職種もあいまって
リアリストみたいな感じなんだけどなぁ。

直後に話を転換する湧太ともども、
ちょっと急ぎ過ぎというか
雑な感じはするなぁ。

そもそも
人魚シリーズの他の作品は
どれもこれも前後編の二部構成だったのに、
なんで『夢の終わり』は
短編だったのかっていう話でもあります。
(舎利姫は1話完結だったけど60ページあったし)。

おんな とか、怪童 とかじゃないと
筆が乗らないんですかね。

まぁ確かに 大眼って
湧太の昔の漁師仲間と同程度のモブでしかなくて、
この物語自体がモブの深掘り作品なんだけど
なりそこないの謎の解明としての位置付けであれば
描くことはいっぱいありそうなんだけどなぁ。

人魚シリーズの長期スパンでの作戦とか
商業的な目論見もいろいろあるだろうから
作品としてどうか、というだけでは
ないのだろうけれどもね。

漁師のじいさんの山小屋には
狩りの成果物がいろいろ置いてあるが
雰囲気づくりにとどまっていて
脚本としてはあまり意味がないのがもったいない。

漫画の在り方自体が
あまり精緻なものではなかった時代、といえば
そうなのかもしれないけれど。

真魚はもう大眼に喰われているんじゃないか問題。
人魚シリーズではいつも思うことだけど、
どこまでだったら欠損しても再生するんだろうね。

うーん散弾銃か。
大眼と一緒にいる真魚も災難だな。

大眼のねぐらで目を覚ました真魚
現れた大眼から身を守ろうとする。

ひと抱え以上もあろうかという岩を
勢いよく投げつける真魚の腕力もたいがい凄いよな。


「寄るなきさま!」、とは。


弱者男性…ってコト!?
まぁたいがい大眼も真魚拉致監禁してるし
いやでもそん時真魚は死んでたから死体遺棄か?


なんかダラダラやってたら長くなってしまいました。
次回、真魚のサービスシーンに続きます


〈つづく〉